著者
江田 真毅 樋口 広芳
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.263-272, 2012 (Released:2012-11-07)
参考文献数
41
被引用文献数
3 3

アホウドリPhoebastria albatrusは北太平洋西部の2つの島嶼域で繁殖する危急種の海鳥である.2006~2007年度の繁殖期の個体数は約2,360羽で,約80%の個体が伊豆諸島の鳥島で,残りの約20%が尖閣諸島の南小島と北小島で繁殖する.本種は暗黙のうちに1つの保全・管理ユニットとみなされており,国際的な保護管理プロジェクトでもその集団構造には関心が払われてこなかった.しかし,これまでの研究から,約1,000年前のアホウドリに遺伝的に大きく離れた2つの集団があったことが明らかになった.19世紀後半以降の繁殖地での乱獲によって個体数と繁殖地数が大きく減少した一方,2つの集団の子孫はそれぞれ主に鳥島と尖閣諸島で繁殖していることが示唆された.現在鳥島では両集団に由来する個体が同所的に繁殖しているものの,鳥島で両集団が交雑しているのかはよくわかっていない.鳥島と尖閣諸島に生息する個体群はミトコンドリアDNAのハプロタイプ頻度が明らかに異なっていることから,それぞれの個体群は異なる管理の単位(MU)とみなしうる.尖閣諸島から鳥島への分散傾向は繁殖地での過狩猟によって強まった可能性も考えられるため,それぞれのMUの独自性の保持を念頭に置いた保護・管理が望まれる.アホウドリの2つのクレード間の遺伝的距離はアホウドリ科の姉妹種間より大きく,また断片的ながら鳥島と尖閣諸島に由来する個体では形態上・生態上の違いが指摘されている.今後,尖閣諸島と鳥島で繁殖する個体の生態や行動の詳細な比較観察と遺伝的解析から,この種の分類を再検討する必要がある.
著者
植田 睦之 島田 泰夫 有澤 雄三 樋口 広芳
出版者
特定非営利活動法人バードリサーチ
雑誌
Bird Research (ISSN:18801587)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.A9-A18, 2009 (Released:2009-09-16)
参考文献数
12

全国31か所で2001年から運用されているウィンドプロファイラという風を観測するためのレーダーに渡り鳥を中心とした鳥からのエコーが映ることが知られている.そこで,2003年 8月から2007年12月の記録を使って,全国的な渡り鳥の状況について記載した.いずれの地域でも 4月から 6月にかけての春期と 8月から11月にかけての秋期の夜間に「鳥エコー」が多く記録された.またその時期は地域によって異なっており,北の地域は南の地域と比べて春は遅く,秋は早かった.渡りは日没 1~3時間程度後から活発になる日が多く,夜半過ぎからは徐々に少なくなった.春の渡りは秋に比べて,日没後に活発になるまでの時間が早く,秋の渡りでは季節の進行に従って,活発になる時刻の日没後の経過時間が短くなる傾向があった.地域的にみると,春の渡りは日本海側で多く,秋は太平洋側も多いという違いがあった.国外では,レーダーをもちいた渡り鳥の生息状況のモニタリングが行なわれているが,日本でもこのウィンドプロファイラを使うことでそれが可能になると考えられ,標識調査等の情報と合わせることでより意味のあるものにできると思われる.
著者
山口 典之 樋口 広芳 辻本 浩史 井上 実 森 さやか 佐々木 寛介
出版者
長崎大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

1. 空中餌資源を把握するための飛翔性昆虫採集ユニットを作成し、ドローンに搭載して採集を行った。ドローンの飛行は安定しており、比較的高速 (ca. 40km/h) で行えたが、捕集できた昆虫類は少なかった。空中餌資源の分布や量がかなり疎であることが理由なのか、捕集システムに大きな問題があるのか検討を重ねる必要が残った。2. ハリオアマツバメの GPS 遠隔追跡を順調に実施し、データを蓄積した。巣からの採食トリップの空間スケールや高頻度利用域の解析を進めた。個体によっては時折、数10km以上の遠方まで直線的に移動していることも明らかになった。利用環境は農耕地(牧草地、耕作地)と林縁・防風林を含む森林だけでなく、都市部の緑地帯や公園にもおよび、都市部についてもかなりの利用が認められた。3. 給餌に持ち帰った餌生物サンプルを蓄積し、空中でどのような餌生物を捕獲しているのかについての解明を進めた。多様な餌を利用していることがわかったが、ケアリ類やクロスズメバチがよく利用されていた。空中での個体数が多い、集中的に分布しているなどの理由が考えられた。どのようにして、そのような集中的に餌生物が発生しているところを発見するかについて、今後、実験アプローチを取り入れて調査を進めることになった。4, 巣箱の設置を継続し、2 年にわたって高い利用率での繁殖誘致に成功した。本種の人工的繁殖場所の提供および生態研究のための環境整備について順調に進捗した。本種は繁殖場所となる大径木の現象に伴い個体数を減らしている。そのような種の保全に役立つ知見を提供することができる見通しが立った。5. 野外調査地で気象調査ドローンを飛ばし、空中の精度高い気象データを計測した。6. 上記の 2, 3, 4 についての現時点での成果をとりまとめ、日本鳥学会 2019 年度大会で発表した。
著者
樋口 広芳
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.353-358, 1979-12-30
被引用文献数
4

HIGUCHI, Hiroyoshi (Lab. For. Zool., Fac. Agr., Univ. Tokyo). 1979. Habitat segregation between the Jungle and Carrion Crows, Corvus macrorhynchos and C. corone, in Japan. Jap. J. Ecol., 29 : 353-358. Corvus macrorhynchos and C. corone use a wide variety of natural resources for food and habitat, and are typical ecological generalists. Because their food is already well known, the habitats of these generalists were investigated. A clear habitat segregation was recognized in this study, which was rather different from the general habitat description appearing in many bird books in Japan. The differences of habitats shown in this study were supported by the results of the examination of stomach contents. By comparison with the situations on the Asian continent, it was suggested that in Japan the habitat of C. macrorhynchos is constricted by sympatry with C. corone.
著者
嶋田 哲郎 呉地 正行 鈴木 康 宮林 泰彦 樋口 広芳
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.9-15, 2013 (Released:2013-05-28)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

東日本大震災が南三陸沿岸で越冬するコクガンに与えた影響を調べるため,岩手県陸前高田市の広田湾から宮城県石巻市の北上川河口にかけて,2011-2012年の冬期に調査を行った.2011年11月下旬~12月上旬,2012年1月上旬,2月下旬の3回,コクガンの分布を調べ,3回の調査でそれぞれ291羽,380羽,403羽のコクガンが記録され,観察されたコクガンの個体数は震災前のデータと大きな違いはなかった.群れが確認された環境をみると,11月下旬~12月上旬と1月上旬では漁港で59%,海上で35-41%と同様な傾向を示した.震災前には漁港でコクガンが観察されることは稀であったが,地盤沈下した岸壁や船揚場に付着した海藻類がコクガンの食物資源となったこと,震災後の漁港への人の出入りの減少に伴いコクガンが妨害を受けずに安定的に利用できるようになったことに加え,震災前の採食場所であったワカメやカキなどの養殖筏が津波によって消失したためと考えられた.一方で,2月下旬になるとそれまでより漁港を利用したコクガンの割合は減少し,海上や砂浜を利用したコクガンの割合が増加した.ワカメやカキの養殖筏の復興,それらに付着した海藻類の生長につれてコクガンの食物資源量が増加したと考えられる.震災によってコクガンの生息環境は大きく変化したが,採食場所をシフトすることでその変化に対応していると考えられる.
著者
樋口 広芳
出版者
THE SOCIETY FOR REPRODUCTION AND DEVELOPMENT
雑誌
Journal of Reproduction and Development (ISSN:09168818)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.j127-j133, 1995 (Released:2010-10-20)
被引用文献数
1

鳥類には,他の鳥の巣に卵を産みこみ,その後の抱卵や育雛をその巣の主にまかせてしまう托卵習性をもつものがいる.そうした鳥の代表,カッコウ属(Cuculus)のカッコウ類の托卵習性について調べてみると,この類のメスは,托卵相手の産卵期の巣にやってきて,巣内の卵を1個抜きとったあと,自分の卵を1個産みこむ.1羽のメスが1巣に托卵するのは1卵だけである.産卵に費やす時間は,数秒から10秒前後と非常に短い.産み込む卵は,托卵相手の卵より少し大きく,色や模様がよく似ている傾向がある.孵化したヒナは,孵化後数時間以上経つと,巣内の卵あるいはヒナを1つずつ背中にのせてすべて巣外に押し出す.これらの特徴はどれも,托卵を成功に導くこと,あるいはより効率よいものにすることにかかわっている.カッコウ類の1羽のメスが1繁殖期に産む,あるいは産卵可能な卵の数は,数個から25個と一般鳥類に比べて多い.これは,巣づくりや育雛から解放されることによって,その分のエネルギーを卵形成にふり向けることができるからだと思われる.
著者
樋口 広芳 長谷川 雅美 上條 隆志 岩崎 由美 菊池 健 森 由香
出版者
公益財団法人 自然保護助成基金
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.69-75, 2020-01-10 (Released:2020-01-10)

八丈小島は外来種であるイタチや野ネコがいない島として,典型的な伊豆諸島の食物連鎖系が残された唯一の島である.しかし昭和44年全島民が離島の際に残されたノヤギが増加し植生被害が顕在化したため,本研究会がノヤギの駆除を提言し,東京都と八丈町が2001年~2007年に計1137頭のノヤギを駆除した.その後,植生は回復していったが,駆除後の生態学的調査は行われていなかったため,今後の保全と活用に資するための基礎査として本研究を行なった.植物においては,希少種であるハチジョウツレサギ,カキラン,オオシマシュスランが駆除後はじめて確認され,爬虫類では準固有種であるオカダトカゲが他の島と比較してより高密度で生息していることが確認された.鳥類では2013年には準絶滅危惧種のクロアシアホウドリが飛来し,2016年-2017年には2個体,2017-2018年には7個体が巣立ち,同種の繁殖北限地となった.イイジマムシクイやアカコッコ,ウチヤマセンニュウなどの希少種が観察されたほか,準絶滅危惧種のカラスバトも高密度で生息していることが確認され,本島が伊豆諸島において貴重な生態系を有することが示唆された.
著者
樋口 広芳 小池 重人
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
(ISSN:00409480)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.27-36, 1978-06-30 (Released:2008-09-11)
参考文献数
133

Distributional records of woodpeckers in various islands of the Japanese islands, Sakhalin, Kuriles, and Taiwan were surveyed on the basis of many reports, papers, and our original data.
著者
川上 和人 樋口 広芳
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類学雑誌 (ISSN:13485032)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.19-29, 2003-09-30 (Released:2008-11-10)
参考文献数
29
被引用文献数
13 12

動物園の飼育個体数の記録を用いて,ミゾゴイ,オオタカ,サシバの1960年代以後の個体数推移の推定を行った。これらの種は,動物園で積極的に収集している種ではなく,また飼育下での繁殖もほとんどされていない。そこで,飼育個体数は保護個体数を,保護個体数は野生個体数を反映していると仮定した。また,これらのデータを補強するため,新潟,栃木,伊良湖岬,宮古諸島での個体数推移の記録を収集し検討した。その結果,ミゾゴイとサシバは1960年代以後,全国的に減少していることが示唆された。これに対しオオタカは全国的に増加傾向が見られた。ただし,飼育個体数で評価したため,過大評価の可能性があり,今後野生個体群に関して詳細に検討していく必要がある。ミゾゴイとサシバの減少は,生息地や食物資源,越冬地の森林の減少等が原因と考えられる。この2種はこれまで保全上あまり注目されてこなかったが,レッドデータブックでの地位を上げ,保全に積極的に取り組んでいく必要がある。
著者
江田 真毅 小池 裕子 佐藤 文男 樋口 広芳
出版者
公益財団法人 山階鳥類研究所
雑誌
山階鳥類学雑誌 (ISSN:13485032)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.57-64, 2011-09-30 (Released:2013-09-30)
参考文献数
15
被引用文献数
4 4

アホウドリ Diomedea albatrus は伊豆諸島の鳥島と尖閣諸島の南小島や北小島で繁殖する危急種の海鳥である。1979年以降,鳥島で生まれたほとんどの個体が両脚に標識をされているにもかかわらず,1996年以降,鳥島の初寝崎において未標識の1個体が観察されている。2005年度の繁殖期まで,アホウドリ誘致用に設置された特定のデコイのそばに毎年巣をつくったこの鳥は,デコイにちなんで「デコちゃん」と呼ばれている。若鳥のうちに標識が両脚から外れることは考えにくいため,この鳥は尖閣諸島で生まれた個体であると考えられてきた。近年の私たちのミトコンドリアDNAの制御領域2を用いた研究によって,アホウドリには2つの系統的に離れた集団(クレード1とクレード2)が含まれていたこと,尖閣諸島で採集された資料はクレード2の個体からなること,鳥島で生まれた個体の多くがクレード1に属することが示唆されている。この鳥の巣で羽毛を採取して解析した結果,この鳥の制御領域2の配列は,これまでに知られていた配列とは異なるものの,クレード2に属することが明らかになった。このことは,デコちゃんの出生地が鳥島ではなく,尖閣諸島であることを支持するものである。デコちゃんは鳥島で生まれた個体とつがいを形成し,2009年度の繁殖期までに2羽の雛を巣立たせている。しかし,2つの系統が交配しているかどうかを判断するためには,両性遺伝する遺伝子マーカーによる研究が必要である。
著者
カーター ハリーR. 長谷川 雅美 ブリット グスタフB.バン 小野 宏治 フリーズ ジョンN. 長谷川 博 植田 睦之 樋口 広芳 モイヤー ジャックT. チャン リーオチクボ フォレスト リーN.デ
出版者
公益財団法人 山階鳥類研究所
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.61-87_1, 2002
被引用文献数
8

我々は伊豆諸島におけるカンムリウミスズメの繁殖や保全について、さまざまな資料を集めて検討した。1835年に種が記載された後、伊豆諸島では1877年にはじめて収集され,1901年に繁殖が初記載された。20世紀以後これまで,カンムリウミスズメは11の島々(鵜渡根島,新島,式根島,早島,神津島,恩馳島,祗苗島,三本岳,元根,小池根,鳥島)で繁殖が確認され,7つの島(大島,利島,地内島,三宅島,御蔵島,八丈島,八丈小島)では繁殖していないと思われた。一方,7つの島(銭洲,藺灘波島,青ヶ島,ベヨネーズ列岩,明神礁,スミス島,孀婦岩)では調査がおこなわれていない。個体群は鵜渡根島と三本岳の間,伊豆諸島北部を分布の中心としている。かつて伊豆諸島は本種の最も主要な繁殖地であると思われたが,20世紀半ば以降,個体群はつぎのような点から大きく減少してしまったと見ることができる。a)式根島や神津島ではすでに繁殖していないこと。b)三本岳ではいくつかの営巣環境が失われていること。c)20世紀初頭において鵜渡根島や早島,三本岳における卵採集者によって伝えられたような大規模な営巣はもはや認あられないこと。d)大島~新島間のフェリー航路からの観察で,カンムリウミスズメは1983~89年と比べて,1990~95年には出現頻度がより低下したこと。現在,伊豆諸島では計350-850つがいが繁殖していると思われる(カンムリウミスズメ全体の推定個体数4,000~10,000羽,あるいは2,000~5,000つがいのうちの7~43%に相当)。そのうち主要な繁殖地は祗苗島(100~300つがい),恩馳島(75~150つがい),三本岳(75~100つがい),そして小池根(20~30つがい)である。最近の推定はないものの,このほかに,100~300つがいがその他の島々(鵜渡根島,新島,早島,鳥島)で営巣しているものと思われる。保全上の問題はつぎのことがあげられる。人間の居住,過去におこなわれた卵の採取,離礁でのレクリエーションフィッシング(磯釣り),移入動物による捕食,三本岳における爆撃演習による繁殖場所消失,人間活動による繁殖地の破壊,火山噴火による営巣環境の消失,カラス類やヘビ,ハヤブサによる相対的に高レベルでの捕食,そして刺し網漁業による死亡である。カンムリウミスズメは日本周辺に分布が限られており,ウミスズメ類のなかではもっとも希少であることから,伊豆諸島においてはさらなる調査やモニタリング,そして保全上の問題に対する評価をおこなっていくことが急務である。
著者
下川 真季 上條 隆志 加藤 拓 樋口 広芳
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.115, pp.P5036, 2004

2000年7月の噴火以降、亜硫酸ガスの噴出が続く三宅島ではスギの枯死が顕著であり、今後、島内の多くのスギ植林地に何らかの植生回復・緑化手段が講じられる可能性がある。そこで本研究では、三宅島におけるスギ人工林の土壌中に含まれる埋土種子集団について、発芽可能な種子数および種組成を明らかにし、その植生回復・緑化利用に対する可能性を検討した。2002年12月、島内のスギ人工林において噴火により堆積した火山灰(以下、火山灰)と噴火前の埋没土壌(以下、表土)を採取した。2003年4月、表土と火山灰、および表土と火山灰の混合物(以下、混合)を用いて、播き出し実験を開始した。定期的に発芽数の測定を行い、さらに出現個体を同定した。表土試料から平均2776±90個体/_m2_(値は現地換算したもの)が発芽し、28種が同定できた。一方、火山灰試料からは85±37個体/_m2_が発芽し、6種が同定できた。また、混合試料からは 1912±638個体/_m2_が発芽し、31種が同定できた。主な出現種は、草本ではダンドボロギク・ハシカグサ・コナスビ・シマナガバヤブマオ・ドクダミ・カヤツリグサ類、木本ではカジイチゴ・ヤナギイチゴなどであり、三宅島の二次遷移初期にみられる種が多く見られた。三宅島での一次遷移初期にみられるハチジョウイタドリやハチジョウススキ、オオバヤシャブシなどの先駆種は全く出現しなかった。また、出現した種のうち、外来種はダンドボロギクの一種のみと少なく、在来種が多かった。以上のことから、三宅島のスギ人工林における埋土種子集団は、種子数・種組成ともに植生回復・緑化利用に対して大きな可能性をもつことが明らかとなった。
著者
藤田 剛 土方 直哉 内田 聖 平岡 恵美子 徳永 幸彦 植田 睦之 高木 憲太郎 時田 賢一 樋口 広芳
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.163-168, 2017 (Released:2017-11-16)
参考文献数
29

アマサギは人に運ばれることなく急速に分布拡大した例とされるが,分散や渡りなど長距離移動には不明な点が多い.筆者らは,茨城県で捕獲されたアマサギ2羽の長距離移動を,太陽電池式の人工衛星用送信器を使って追跡した.2羽とも,捕獲した2006年の秋にフィリピン中部へ移動して越冬したが,その内1羽が翌春に中国揚子江河口周辺へ移動し,繁殖期のあいだそこに滞在した.そこは,前年繁殖地とした可能性の高い茨城県から1,900 km西に位置する.この結果は,東アジアに生息するアマサギにおいて長距離の繁殖分散を確認した初めての例である.
著者
シュプリンガー マークS. 樋口 広芳 上田 恵介 ミントン ジェイソン シブレイ チャールズG.
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.66-77_1, 1995-10-30 (Released:2008-11-10)
参考文献数
37
被引用文献数
8 8

小笠原諸島の固有種,メグロApalopteron familiareは,1958年以降ミツスイ科に分顔されているが,これまでにヒヨドリ科,メジロ科,チメドリ科などにも分類されており,分類学上の位置が不安定な鳥である.われわれはミトコンドリア12SリボソームRNAをコードするDNAの塩基配列に基づく分子生物学的手法により,メグロがメジロ科の1種であることを示す証拠を得た.また,メジロ科の中では,マリアナ諸島南部に生息するオウゴンメジロCleptornis marcheiに近縁であることを明らかにした.オウゴンメジロもかつてはミツスイ類とされていたが,最近,DNA-DNAハイブリダイゼーション法や生態•行動研究などによってメジロ類であることが判明した鳥である.メグロは,相互羽づくろいや接触就眠を行なう,巣づくりから育雛まで雌雄で行なう,求愛給餌を行なわない,などの生態,行動面でもメジロ類に似ている.また小笠原諸島には元来メジロ類は分布しないことになっているが,メグロがメジロ類の1種になることで分布のこの奇妙な空白も埋まることになる.
著者
樋口 広芳
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
(ISSN:00409480)
巻号頁・発行日
vol.24, no.97-98, pp.15-28, 1975-12-30 (Released:2007-09-28)
参考文献数
20
被引用文献数
4 1 17

1972年4月から1975年3月まで,南伊豆地方のヤマガラと三宅島のヤマガラの採食習性に関する比較研究を行なった。調査は主として次のようにして行なった。まず採食場所•食物•採食方法などをそれぞれいくつかの種類に分け,毎月一定回数一定のコースを一定の速度で歩きながらその種類別に観察数を記録していき,のちに時期毎の観察総数で割り,それぞれに対する時期別の観察頻度を算出した。調査結果の概略は次のとおりである。1.採食場所 冬季以外は両地域のヤマガラ共,枝葉に集中して採食する傾向が見られたが,この場合,南伊豆ヤマガラでは森林の上中部を,三宅島ヤマガラでは森林の中下部を利用することが多かった.また三宅ヤマガラでは南伊豆ヤマガラに比べて地表部を利用することが多く,特に秋冬季にはそれが著しかった(Table1, Table 2)。両者の採食場所に見られたこれらの違いの原因は,一部は調査環境の違い(これは両者の生息環境の選好性の違いにも基ずいている)に,一部はその生息環境の選好性の違いと関連した近縁種シジュウカラとの生息関係に, また一部は両者の食習性の違い(特に三宅ヤマガラにおける冬季のシイの実食)にあると考えられた。2.採食方法 両地域のヤマガラ共,枝葉についている木の実をとる時には「つりさがり法」と「とびつき法」を,枝葉の昆虫をとる時には「つりさがり法」を最も多く用いていた。(Table3)。食べる時には両者共,木の実の場合には両脚で,昆虫の場合には片脚で必ず押えた。また昆虫を押える際に主にどちらの脚を使うかは,両地域のヤマガラ共それぞれの鳥で決まっているように思われた。このように採食方法に関しては両地域のヤマガラの間で相違よりもむしろ類似の方が目立ったが,この習性は生息場所が変っても殆ど変ることがない,ヤマガラという種に共通のものであろうと考えられた。3.食物 南伊豆ヤマガラでも三宅ヤマガラでも, 4月から7月頃までは昆虫など動物質のものを多く食べていたが,秋冬季には木の実など植物質のものにもかなり依存していた(Table4,Table6)。この傾向は特に三宅ヤマガラで著しく,この島のヤマガラでは殊にスダジイの堅果を多食するのが非常に目立った。シイの実に対する依存度に見られたこの違いは,島という生態的多様性に乏しい環境下にある三宅ヤマガラの方が,食物の不足しがちなその時期に南伊豆ヤマガラよりもこの実に多く頼らざるをえない状況にあるため,と思われた。4.貯 食 この習性は両地域のヤマガラで見られたが,観察のしやすさも影響してか,三宅ヤマガラで見る機会が多かった。三宅島ヤマガラでは貯蔵行動は8月から2月までの間見られ,対象となっていた食物はスダジイやエゴノキなどの堅果であった(Table8)。また冬から春にかけて彼らが食べていたシイの実は,その殆どすべてがこの貯えていたものであると考えられた。貯蔵行動は飼育下では南伊豆ヤマガラでも三宅ヤマガラでも同様に見られ,これは生後1週間以内に野外の巣から持ち帰り親鳥の行動を見せずに飼育していた鳥でも見られたことから,学習を経ずして現われる行動であることが推察できた。
著者
牛山 克己 天野 達也 藤田 剛 樋口 広芳
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.88-96, 2003 (Released:2007-09-28)
参考文献数
81
被引用文献数
6 5

近年,ガン類と農業との軋轢が高まっているが,これらのガン類の中には保全の対象とされている種も多い.行動生態学的研究は,農業被害管理と保全を共通の視点で捉えることができる.そこで本稿は,ガン類の生息地利用に関する行動生態学的研究がいかに農業被害問題へ応用されているかをまとめた.農業被害の発生メカニズムを明らかにする行動生態学的研究によって,状況に応じた管理方策を提言することができ,効率よく農業被害問題に取り組むことができる.それら管理方策には,防除器具の徹底と代替採食地の提供,そして農業活動や人為的撹乱の管理による生息地管理が含まれる.より大きな空間スケールでは,ガン類の生息地選択を理解することで,保全と農業被害を考える上で重要な,極度に集中化したガン類の分散化対策を生物学的根拠に基づいて行うことができると考えられる.これらの行動生態学的知見を統合することにより,ガン類の分布や個体群動態の予測モデルを構築することができる.個体の行動の進化的背景を組み込んだモデルは,環境の変化に対する個体群レベルの反応を予測することができ,農業被害の予防的管理やガン類の保全における有効な手法となり得る.
著者
樋口 広芳
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
(ISSN:00409480)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.9-12, 1977-06-30 (Released:2007-09-28)
参考文献数
7
被引用文献数
4 3

伊豆諸島三宅島にすむヤマガラについて,1975年と1976年の繁殖期に,親鳥が巣内雛にもつてくる食物の中に秋冬季に貯えておいた木の実がどの位含まれているかを調べた。食物の確認は,巣箱の近くのブラインドの中から撮影した写真に基づいて行なった。得られた結果は次のとおりである。1)雛に持ってきた木の実の中味はすべて,スダジイの実の中味と認められた。そして,これらは,常態ではこの時期に得られるものではないので,すべて秋冬季に貯えておいたものであると考えられた。2)雛に与える食物中に占める貯蔵食物の割合は,運搬回数によっても運搬個数に基づいても,調査総数の5%前後にすぎなかった。したがって,貯蔵食物がひなの生長に大きな役割を果したとは考えられない。3)前年秋のシイの実のなり具合がよくなかった1975年と,よかった1976年とでは,貯蔵食物の占める割合に有意な差は認められなかった。4)その原因は,この島のヤマガラでは秋に貯えておいたシイの実の大部分を冬季に利用してしまうため,雛を育てる時期には年による著しい違いをもたらす程多くの実が残っていないらしい,ということにあると考えられた。