著者
田中 智貴 三浦 史郎 呉林 英悟 山下 武廣
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.561-567, 2022-05-15 (Released:2023-05-20)
参考文献数
15

背景:生理食塩水負荷Pd/Pa(saline induced Pd/Pa ratio;SPR)は冠血流予備量比(fractional flow reserve;FFR)計測の際に行う薬剤負荷を必要としない虚血診断検査である.SPRはResting Pd/Paと同様にニコランジルを用いたFFR(N-FFR)計測と比較しても副作用が少なく,患者にとって負担の少ない方法であるが,N-FFRとSPRの相関や診断精度に関する報告はいまだ十分に行われていない. 目的:SPRとN-FFRを同時施行し,両者の相関を調べ,FFR<0.80となるSPRのカットオフ値を決定する. 方法:2012年4月から2021年1月の間に当院に安定狭心症の診断で入院した898名の患者のうち,侵襲的冠動脈造影後に同一の中等度冠動脈狭窄(目視30-90%狭窄)に対してSPRとN-FFRを同時施行した448症例520病変を本研究の解析対象とした.これらの患者に対してSPRとN-FFRの関係を解析し,さらにN-FFRのカットオフ値0.80を基準としたSPRのカットオフ値をROC曲線(receiver operating characteristic curve)にて算出した. 結果:両者の中央値はSPR 0.92(IQR 0.87-0.96),N-FFR 0.85(IQR 0.78-0.90),SPRとN-FFRは強い正の相関(r=0.89:p<0.01)を認めた.N-FFR≦0.8に対する予測解析では,ROC曲線から算出したSPRのカットオフ値は0.89(感度85%,特異度87%),曲線下面積(area under the curve;AUC)は94%であり,カットオフ値0.89を用いた際の診断精度は87%であった. 結論:SPRはN-FFRと強い正の相関を示し,高い診断精度を認めた.SPRは薬剤負荷を必要としないため,より侵襲性の低い機能的虚血評価が可能なことから有用な検査方法の1つとなりうる.