著者
渡辺 弘之 登尾 二朗 二村 一男 和田 茂彦
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
no.41, pp.1-25, 1970-03
被引用文献数
4

京都大学芦生演習林 (京都府北桑田郡美山町) においては, ッキノワグマは最も重要な林木への害獣である。クマは6月上旬から7月中旬にかけて, スギを主とし, ヒノキ, モミ, ツガ, ヒバ, ゴヨウマツおよび植栽されたカラマツ, ドイツトウヒなどの針葉樹とサワグルミ, シナノキなどの広葉樹の樹皮を剥ぎ, 形成層部をかじる。最も被害の大きいスギでは直径12α η, とくに20cm 以上のものを好み, 高さ2 - 4mまでの樹皮を剥ぎ, そのうちの地際より1 - 1. 5mまでの形成層部をかじる。一度に5 - 10本が被害を受け, その剥皮面積は0. 9 - 2. 1m_2にも達する。大面積を占める天然林中のスギでは胸高直径20cm以上のもの20 - 40%が剥皮の害を受け, 人工林ではまだ面積は小さいが, 地域によって80%に及ぶところもある。クマによって全周剥皮されたスギは枯れるが, ほとんどのものは部分的な剥皮であるので, 枯死することは少ない。しかし, 剥皮されたものは枯れなくても, 生長量は減少し, 剥皮部が腐朽し, 利用材積は小さくなるし, 品質は著しく悪くなる。また, 芦生演習林において観察されたクマの摂食あとや糞の内容物, 捕獲されたクマの消化管の内容物から, クマはクリ, ミズナラ, ヤマブドウ, アケビ, アオハダ, カナクギノキ, スモモ, カキなどの実, キイチゴ, クマイチゴ, バライチゴの実, ネマガリダケのタケノコ, ウバユリ, バイケイソウ, カンスゲ, シシウド, カニコウモリ, イタドリ, フキ, ウワバミソウなどの葉, 茎, 根とムネアカオオアリ, ミツバチ, スズメバチ, カニなどを食べていること, クマの越冬穴にはスギ, ブナ, ミズナラなどの大径木の空洞が利用されていることがわかった。