著者
白幡 洋三郎
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
no.53, pp.p216-230, 1981-11
被引用文献数
1

横浜公園は日本に於ける近代公園の先駆として知られている。創設に至る経緯も何人かの先達によって研究されている。ただそれらに共通しているのは, 横浜居留地の外国人達の要求が発端となっているせいもあって, 外交文書の文面を追うことに終始している点である。本稿では, まずそもそも何故外国人居留地の中に公園が必要とされたのか, また居留外国人のうちどのような層の人々が必要としたのかを考察し, 居留地内のハイクラスの人々が, 本国での生活のスタイルを居留地に持ち込んだものであると結論づけた。さらに, これまで利用きれなかった外務省資料の図面, 費用調書から公園造成の具体的なうごきを追った。その結果日本側の財政事情により造成費が削減されたこと, それに伴い直線ばかりの整形的な地割が, 曲線を持つ自然式に変わり, また植付けの樹木も当初リストに挙げられていた仕立物が最後に消え, 自然樹形のものとなったことが明らかになった。工事を担当する日本側は様々の変更に器用に対処している。一方外国側は, 一貫して公園の必要を主張して, 当初のプランとは異るとはいえ, 目指す公園をとにかく確保した。これは公共造園を舞台にして, 明治初期の特にヨーロッパと日本の文化, また生活の流儀の差があらわれたものであり, 日本側のヨーロッパ文化の受容と近代化への対処の一例と考えられよう。(なお本文中の年代の漢数字は陰暦, アラビア数字は太陽暦での年代を示す。たとえば明治三年五月, 明治6年11月, のごとくである。)
著者
野嶋 政和 吉田 鐡也
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
vol.65, pp.298-309, 1993-12-24

郊外住宅地の形成に思想的に連なる「田園都市論」は当初内務省地方局を中心に受容された。「田園都市論」は地方改良運動との関係で受容されたのであるが, それは明確な目的意識の下で受容されたのではなかった。しかし, 当時の社会状況に対応しようとする感化救済事業と接合されることを通して, 「田園都市論」は積極的な意義を与えられることになった。感化救済事業では, 従来は住宅に関する問題は救貧・防貧対策として考えられていたのだが, 資本主義の生産関係における労働力再生産過程を支える機能空間として「住」に関わる空間が理解されるようになったのである。また, この空間は国民統合というもうひとつの課題を実現するための「社会」を創出していく空間としても機能することを求められるに至った。「田園都市論」は, 分節化されかつ統合された社会関係を支え, 発展させていく空間論へと展開された。
著者
丸山 宏
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.233-247, 1987-12-10

明治4年, 社寺領上地令の発布後, 明治8年6月の「社寺境内外区画取調規則」により, さらに社寺境内付属地であった林野 (山地, 山林, 山岳, 薮地) もその対象となり上地された。この規則に基づき京都府では各部で『社寺境内外区別取調帳』が作成される。社寺上地林の実態がこの『取調帳』から読み取れる。また, 明治6年8月の太政官布告第291号により, 風致林として主要な上地林が存置された。その総面積は2626町3反5畝歩である。これは当時 (明治16年時) の官有林の81%にあたる。京都府第三代目知事であった北垣国道はこの社寺上地林を含む名勝地の保護を京都経済復興策のひとつとして重要視した。観光資源としての名勝地の保護の目論見である。その後, 明治27年になり京都府議会において, 官林移管後の社寺上地林に対し「名区勝地風致林保護ノ建議」がなされる。しかし, これは法制的にも政府の聞き入れるところとはならなかった。明治30年4月, の「森林法」が公布され, その中の保安林の規定により, 社寺林, 名勝地の風致林の保護が明文化されたが, 逆に法制化によりその射程域が縮小されたといえる。
著者
大畠 誠一 鬼石 長作
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.51-57, 1974-12-14

長野県木曽御岳山で, 森林限界付近に成立するシラビソ天然林の樹形と生産力を調べた。冬期に雪の吹きだまりとなるこの地域のシラビソは長野県下の他の地域のシラビソに比べるとズングリした形をもち, 幹の形は座屈荷重に対して強い形となっていた。林分の現存量は地上部分で35. 5 - 135. 4t/haと推定され, 葉量は4. 2 - 13. 2t/haと推定された (表1)。また葉, 枝, 幹の生産量はそれぞれ0. 75 - 2. 48t/ha・yr, 0. 11 - 0. 37t/ha・yr, 0. 32 - 1. 10t/ha・yrと推定された (表2)。このシラビソ林は他のシラビソ林に比べて著しく生産量が低く, 一定葉量当りの生産量も低い値をもっていた。また, 生産された物質は特に生産器官 (葉) に多く配分されていた。
著者
伊藤 太一
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
no.65, pp.p310-324, 1993-12
被引用文献数
1

1892年に設置されたニューヨーク州立アディロンダック公園は今日においても6割近く私有地を含む地域制の公園である。約4割を占める州有地は1895年に州憲法で自然状態を保つことが規定された保護林であるが, それ以来その利用をめぐって改憲論議が展開されてきた。その過程を探ることによって, 水源涵養を中心とする功利主義的な保全からレクリエーション空間としての保全へ, さらに生態系のプロセス保全にいたる, 保護林のあり方を巡る人々の考え方の展開が明らかになった。一方, 公園内の私有地は少しづつ買収されていったが, 全部を買収することは当初から断念されていた。私有権の強固なアメリカの伝統を反映して, 私有地においては野外広告以外ほとんど規制されない状態が続いた。その結果, 特に第二次大戦以降, ディベロッパーによって細分化され別荘地として分譲されていくという無秩序な開発が問題となった。この間題に対処すべく1971年にアディロンダック公園事務所が設置され, ゾーニングによる私有地の土地利用基本計画が1973年に定められた。しかし, これは地元住民との対立を生じ, 地元経済の活性化と公園の自然環境保全の共存の道が探られるようになった。
著者
首藤 勇一郎 岡村 圭造 田中 文男 則元 京
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
no.58, pp.280-288, 1986-12

セルローストリプロピオネート (CTP) の1本の分子鎖について, 1残基内および連続する残基間の非結合原子間反発エネルギーを考慮したパーチュアルボンド法により, コンフォーメーション解析を行なった。X線繊維図から, CTPの繊維周期は1. 508nmと計算され, 消滅則より分子鎖方向に3回らせん軸が存在する。このように分子軸方向に3回らせん軸をもつセルローストリプロピオネートの構造は, 他のセルローストリエステル同族体 (セルローストリアセテート, セルローストリブチレート, セルローストリバレレート) が2回らせん構造を有するのに対して, 特異的である。エネルギ一計算および非結合原子間の容認されることのできない接触の有無を調べた結果, 右巻き3_1らせんに比べ, 左巻き3_2らせんの方が低いコンフォーメーションエネルギーを持つ事がわかった。考慮した16のモデルのうち, 最も可能性の高い左巻き3_2らせんのコンフォーメーションにおいては, 側鎖はらせん軸に対しほぼ垂直に伸びた構造を持つ。
著者
水山 高久 佐藤 一朗 小杉 賢一朗
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
no.66, pp.p48-60, 1994-11
被引用文献数
2

山腹斜面中にはパイプ状の水みちがあり, 流出過程に大きな影響を与えていると考えられるようになってきた。しかし, その実態については限られた地域でしか明らかにされていない。山腹の表層崩壊について一様な土層構造を仮定した雨水の浸透現象に基づく説明が試みられてきたが, 崩壊の発生し易い斜面は判定できるものの, 時間的に降雨のピークに対応して発生する現象は説明されていない。筆者らは最終の研究目標を表層斜面崩壊の予測に置き, そのために必要不可欠な研究項目としてパイプフローを取り上げた。かつて谷の出口で流量観測が実施された芦生演習林内のトヒノ谷の中の1つの凹地形 (0次谷, hollow) において2つのパイプの流出量を観測するとともにパイプの空間的な分布を調べた。その結果, 以下のような項目が明らかになった。・0. 64haの0次谷で雨中の調査を行った結果, 直径3 - 8cmの7カ所のパイプの出口が見つかった。その内, 下流端の3カ所だけに常時流水が見られる。その他は斜面が先行降雨によって湿潤になって降雨強度が大きい場合にのみ流出が見られた。・パイプ流出量の時間的な変化は降雨波形とよく対応している。しかし, パイプの流量には上限があり頭打ちとなる。観測しているパイプの1つで1リットル程度の土砂流出が発生した。その後, このパイプについては上述の流量の上限が無くなった。・パイプの形状, 分布を調べるため掘ってみた。パイプの形をしているのは出口から50cm程度で, その後はマトリクスの流失したと思われる礫層につながっていた。したがって, 地表への出口はパイプとなっているが流れとしてはパイプ流というよりも礫間流と呼ぶべきものであった。・パイプからの流出は流量に上限を与えたタンクモデルでうまく説明することができた。
著者
渡辺 弘之 登尾 二朗 二村 一男 和田 茂彦
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
no.41, pp.1-25, 1970-03
被引用文献数
4

京都大学芦生演習林 (京都府北桑田郡美山町) においては, ッキノワグマは最も重要な林木への害獣である。クマは6月上旬から7月中旬にかけて, スギを主とし, ヒノキ, モミ, ツガ, ヒバ, ゴヨウマツおよび植栽されたカラマツ, ドイツトウヒなどの針葉樹とサワグルミ, シナノキなどの広葉樹の樹皮を剥ぎ, 形成層部をかじる。最も被害の大きいスギでは直径12α η, とくに20cm 以上のものを好み, 高さ2 - 4mまでの樹皮を剥ぎ, そのうちの地際より1 - 1. 5mまでの形成層部をかじる。一度に5 - 10本が被害を受け, その剥皮面積は0. 9 - 2. 1m_2にも達する。大面積を占める天然林中のスギでは胸高直径20cm以上のもの20 - 40%が剥皮の害を受け, 人工林ではまだ面積は小さいが, 地域によって80%に及ぶところもある。クマによって全周剥皮されたスギは枯れるが, ほとんどのものは部分的な剥皮であるので, 枯死することは少ない。しかし, 剥皮されたものは枯れなくても, 生長量は減少し, 剥皮部が腐朽し, 利用材積は小さくなるし, 品質は著しく悪くなる。また, 芦生演習林において観察されたクマの摂食あとや糞の内容物, 捕獲されたクマの消化管の内容物から, クマはクリ, ミズナラ, ヤマブドウ, アケビ, アオハダ, カナクギノキ, スモモ, カキなどの実, キイチゴ, クマイチゴ, バライチゴの実, ネマガリダケのタケノコ, ウバユリ, バイケイソウ, カンスゲ, シシウド, カニコウモリ, イタドリ, フキ, ウワバミソウなどの葉, 茎, 根とムネアカオオアリ, ミツバチ, スズメバチ, カニなどを食べていること, クマの越冬穴にはスギ, ブナ, ミズナラなどの大径木の空洞が利用されていることがわかった。
著者
竹内 典之 酒井 徹朗 楊 潤田
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
no.63, pp.p218-225, 1991-12

中国東北部興安嶺地域および東北平原における凍土の分布と道路, 橋梁, 建築物等の災害の概況について報告する。1. 興安嶺地域および東北平原は, シベリアに中心を持つ周極の永久凍土帯と季節凍土帯との移行帯に位置する。一般に, 永久凍土帯と季節凍土帯との移行帯においては, 土の凍結深度や凍土の融解深度が大きい。2. 興安嶺地域およびその周辺部は, 冬季には厳寒なシベリア気団の影響を強く受けるため気温が極めて低く, 他の同緯度地域に比べると凍結指数は1, 000 - 1, 500℃・Dayも大きい。また, 夏季には, この地域は比較的低緯度地域に位置するうえに, この地域に向かって太平洋高気圧から吹き込む温暖多湿な季節風の影響により比較的気温が上昇する。そのため, この地域においては, 凍結指数, 融解指数ともに極めて大きく, 永久凍土地域にあっては活動層厚が, また, 季節凍土地域にあっては最大凍結深度が極めて大きいのが特徴である。3. 興安嶺地域および東北平原は, 凍土の分布状況から (1) 連続永久凍土区, (2) 不連続永久凍土区, (3) 点在永久凍土区, (4) 季節凍土区に分けられ, この地域の地理, 気象条件から点在永久凍土の分布面積が極めて広いのがこの地域の特徴の一つである。4. 興安嶺地域および東北平原においては, 永久凍土地域にあっては活動層が, また, 季節凍土地域にあっては最大凍結深度が極めて大きいことから, 土の凍結 - (凍上) - 凍土の融解の過程で発生するさまざまな現象によって引き起こされる道路, 橋梁, 建築物等の災害も多岐にわたり, 被害の程度も極めて大きい。5. 興安嶺地域および東北平原における道路, 橋梁, 建築物等の災害は, (1) 土の凍結 - (凍上) - 凍土の融解の過程で発生するさまざまな現象によるもの, (2) 永久凍土地域に特有な地表水, 地下水の凍結による巨大氷塊 (涎流氷, 氷椎, 氷丘等) の生成と融解によるもの, (3) 地被条件等の人的あるいは自然的な撹乱による土の凍結深度あるいは凍土の融解深度の増大によるもの, (4) その他とに大別できるようである。
著者
山本 俊明 瀧本 義彦 寺川 仁 山田 容三 藤井 禧雄 佐々木 功
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
no.57, pp.p247-257, 1986-01
被引用文献数
1

本研究は林業機械作業における作業者の生理負担に関する研究の一環として最近特に機械化が進んでいる枝打ち作業について作業者の作業中の生理負担について調査したものである。調査を行なった場所は京都大学農学部付属和歌山演習林内, 11林班ヒノキ人工林, 7林班スギ人工林である。作業者は演習林職員1名, 作業員2名の計3名で, 枝打ち機械による作業とナタとハシゴによる手作業について作業中の心拍数を心拍メモリ装置を使って測定し生理負担を推定した。この他, 1時間当りの枝打ち本数についても調査した。作業者の作業中の生理負担の推定は, 各作業者の作業中の心拍数を踏み台昇降運動 (ステップテスト) の物理仕事量に換算し, しかる後次式によりエネルギ一代謝量 (Kcal/分) を推定した。エネルギ一代謝量 (Kcal/分)=0. 0163×体重 (Kg)×台高 (m)×昇降回数 (回/分)+安静時エネルギ一代謝量 (Kcal/分) 結果, 作業中平均心拍数と1時間当りの枝打ち本数は, 手作業の場合ヒノキで77. 2 - 115. 3拍/分, 15. 6 - 27. 9本/時, スギで92. 0 - 111. 0拍/分, 11. 3 - 18. 1本/時, 機械作業の場合, ヒノキで81. 2 - 122. 5拍/分, 13. 6 - 15. 4本/時, スギの場合, 77. 6 - 112. 8拍/分, 9. 6 - 12. 8本/時, の範囲であった。作業中の生理負担については, はっきりした傾向はみられないが, 6. 0Kcal/分 - 7. 0Kcal/分の間であると推定出来る。