- 著者
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古野 東洲
渡辺 弘之
- 出版者
- 京都大学農学部附属演習林
- 雑誌
- 京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
- 巻号頁・発行日
- vol.41, pp.41-55, 1970-03-25
この研究は, 愛媛県下の西条営林署管内および今治市長沢にあるフランスカイガンショウ林のマツノシンマダラメイガによる被害と雪による被害を, 1968年10月21 - 24日および1969年1月30日に調査し, その被害の状況を記録したものである。雪害は1968年2月14 - 16日にみられた降雪のために, 冠雪によりおこったもので, 当時あ降雪量は西条の林分では40 - 50cm, 今治市長沢の林分では20 - 30cmであったようである。調査したフランスカイガンショウの林分は調査時つぎのような状態になっていた。西条の林分は, 約1haで, 1930年に造林され, 平均胸高直径は18. 5cm, 平均樹高は推定13m, ha当り1257本で, フランスカイガンショウの純林であったが, 雪害で大きな被害をうけていた。今治市長沢の林分は, 西南向きの斜面に成立し, 約0. 2haにフランスカイガンショウに少数のアカマツ, クロマツが混生していた。ha当りの立木本数は7033本の高密度で, そのうちフランスカイガンショウは6368本であった。この林分は, 1952年秋に40年生のフランスカイガンショウを伐採した跡地に天然更新でできあがったもので, 胸高直径は1cmから12cmまで, 樹高は2. 1mから8. 9mまでの各種の大きさの個体よりなり, それぞれの平均値は4. 5cmと5. 5mであった。この林分も雪害で激しい被害をうけていたが, 約100m離れた尾根に植栽されている約0. 1haの小林分 (平均胸高直径9. 7cm, 平均樹高7. 2m, ha当り2000本) では, 雪による被害は軽微であった。雪害調査は, 幹の折損および幹の曲りを記録し, 折れたものでは, その状況 (幹が全く切断されているもの, 幹は折れているが一部で付いているもの, 幹が割れているもの) およびその位置 (樹冠内および下枝より下部) を調べ, 折損高を測った。さらに長沢の林分では折損部の直径を測り, 折損部を分枝部, 分枝部上部, 分枝部下部および節間に分け調査した。フランスカイガンショウに対するマツノシンマダラメイガの加害はすべて幹に限られ, その被害率は, 西条の林分では43%, 長沢の斜面の林分では3%, 尾根の林分では6%で, 西条と長沢で差がみられた (表-1)。雪害は幹の折れと曲りが大部分で, 幹の割れや枝抜けは数例みられたにすぎなかった。雪害率は西条の林分では71%, 長沢の斜面の林分では80%で雪害は激しかったが, 長沢の尾根の林分では13%の微害で, 長沢での両林分の雪害差の原因は, 林分を構成している個体の形状比にあるようであった (表-1, 2, 3)。雪により激害をうけた両林分を比較すると, 西条では幹の折れが雪害木の大部分 (98%) を占めていたが, 長沢では幹の折れと曲りがほぼ半々であった。さらに, 幹の折損で, 西条では折損木のうち完全に切断されたものが72%であったが, 長沢では4%とすくなく, 両林分で雪害のあらわれ方に大きな違いがあった。この原因の1つに両林分の幹の形状比の違いが考えられる (図-1)。幹の曲ったものは形状比の大きいものに, また胸高直径の細いものに多くあらわれている。幹の折損部は胸高直径が太いものは樹冠内で, 細くなるにしたがって樹冠の下で折れる個体が多くなっているが, 長沢の林分では, 折損木の23%が, 西条の林分では75%が樹冠内で折れていた (図-3)。さらに長沢の林分では, 枝階の分枝部の直ぐ上で折れているものが67%で最も多く, 分枝部 (15%), 分枝部の直下 (10%), 節間 (8%) の順になった。折損高は, 長沢では樹高の0. 2 - 0. 5倍の位置に集中 (69%) し, 大部分 (91%) は樹高の0. 6倍より下で折れていた (図-4)。西条では樹高の0. 6 - 0. 8倍のところで折れたものが多かった。折損部の直径は, 大部分の個体では, 胸高直径の0. 7倍より太く, 折損個体の約半数は胸高直径の0. 7 - 0. 9倍の太さのところで折れていた (図-5)。附近のアカマツと比較して, フランスカイガンショウは雪に対してやや弱いようであった (表-1, 4)。西条の林分で, マツノシンマダラメイガの被害をうけていた73本中, 虫害部で折れていたものは4本で, また, 雪で折れた119本中, 42本は虫害をうけていたにもかかわらず, 健全部で折れていた。すなわち, 本調査でのフランスカイガンショウの雪による折損はマツノシンマダラメイガによる幹の被害とは, とくに関係がないことがわかった。以上の結果から, フランスカイガンショウは, マツノシンマダラメイガによる被害に加えて, 雪に対しても相当に弱いことがわかり, 生長が非常に良いということで, これらの要因を考慮せずに利用することには, 大きな危険がともなうのではないかと考えられる。