著者
品川 啓介 玄場 公規 阿部 惇
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究 技術 計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.200-213, 2014

青色発光ダイオード製品開発を例にとり,科学論文書誌情報をもとにこの製品開発に伴い生じた科学知識の爆発を分析することによって,その背後にある技術的プロセスイノベーションの特徴を探る。青色発光ダイオード製品開発においては,青色発光を可能にする新しい半導体結晶材料の候補として,ガリウムナイトライド(以下,GaNとする)結晶とセレン化亜鉛(以下,ZnSeとする)結晶が時期を同じくして存在し,結果,GaN結晶の開発成功によって初めて製品化を実現したことが知られている。科学論文の書誌情報をもとに,1970年から2012年(データ収集時におけるデータベースの最新収録年)までの両結晶開発推移を分析した結果,GaN結晶開発に関わる研究論文はロジスティック曲線を描くように増加する一方で,ZnSe結晶開発に関わる研究論文では緩やかな単調増加が観察された。GaN結晶開発に見られるこの曲線の前半には,科学知識の爆発と見られるGaN結晶開発研究の論文急増が生じており,GaN結晶の製品化を可能とするプロセス技術として知られるMetalorganic chemical vapor deposition(MOCVD)が研究課題として含まれていた。以上の発見から,GaN開発研究成功の背景には「科学的知識の爆発」が存在し,その爆発の様子は製品開発に関わる論文累積数の急激な上昇によって観察され,その因子のひとつとして科学を起点として形成される技術的プロセスイノベーションが挙げられることを指摘する。