著者
栗田 明 品川 直介 小谷 英太郎 高瀬 凡平 草間 芳樹 新 博次
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.63-69, 2010 (Released:2010-03-25)
参考文献数
14
被引用文献数
4 4 2

目的:特別養護老人ホーム(特養)において超高齢者の看取りケアを行う施設が増加しているが,基準となる指針は各事業所により異なる.また入所者の身体所見の変化などで病院での治療を家族らが希望するケースがあるが,終末期ケアに関するデータに乏しい.そこで看取りケアをした症例と,入院依頼症例の予後について比較検討した.方法:対象は平成20年2月1日から平成21年5月20日までに看取りケアを実施した5例(99±10歳)と当施設に入所中に病態が急変したため提携先の病院に入院加療した48例(89±15歳)である.看取りケアをした症例は当施設において通常のごとく有熱時や心不全の急性増悪に対する医療看取りケア(有熱時には通常行っている摂食制限,水分多め,血管拡張剤,抗生剤などの経口投与)を行った.また枕元での癒しの音楽を毎日約60分間流した.他方,病院入院症例は入院先の医師指導による通常の治療を実施した.結果:看取りケア症例は平均300±70日で5例全例が生存し,CRPは平均10±12 mg/dl から1.2±0.5(p<0.05)に低下し,血清アルブミン値(Alb)は2.7±1.6 g/dl から3.5±2.6に,BMIも16±1.6から18.3±0.75(p<0.05)に上昇した.他方,入院症例は48例で,そのうち32例は平均120±26日の入院加療で当施設に退所することが出来た.しかし16例は平均100±36日の入院加療で死亡退院(誤嚥性肺炎;11例,心不全;3例,消化器疾患;2例)であった.結論:百寿者といえども高齢を考慮した看取りケアを行えば急性増悪期を克服し,生命力をさらに発揮することが出来る.しかし,慢性基礎疾患の急性増悪や肺炎などで入院加療した約1/3の症例は死亡退院であった.これらの事実を認識しながら家族らとの話し合いなどを通じて入所者が終末期を迎えられるよう看取りケアに励むべきである.
著者
栗田 明 品川 直介 小谷 英太郎 岩原 真一郎 高瀬 凡平 草間 芳樹 新 博次
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.336-343, 2012 (Released:2012-12-26)
参考文献数
26
被引用文献数
1 1

目的:2年前の本誌に我々の超高齢者の看取りケアについて報告した.時間の経過とともに症例も増加しているので,その後の経緯と常勤医の立場から特養における医師の役割について私見を述べる.対象および方法:平成20年2月1日から平成23年6月下旬までの間に看取りケアを実施した7例(101.5±4歳,女)と当施設に入所中に病院に入院加療を要請した98歳未満の130例(87±6.5歳,男/女:42/88)及び同時期に入院加療を要請した98歳以上の12例(101.8±7歳,男/女:2/10)である.結果:看取りケアを実施した7例中4例は480±297日で死亡した.現在3例に看取りケアを実施中である(805±662日).入院加療を依頼し当施設へ帰所出来た症例は93例(71.5%,86.7±10歳,男/女:27/66)で,死亡退所例は37例(28.5%,86.4±11歳,男/女:15/22)であった.生存退所例は誤嚥性肺炎についで消化器疾患が多かったが,死亡退所例は誤嚥性肺炎についで心不全が多かった(p<0.05).98歳以上で看取りケアにエントリーしない症例は15例で,12例は入院加療が必要になった.死亡退所例は9例(75%)で,98歳未満の入院症例に比べて多かった.103歳の左乳がん例に摘出術を行い成功し3日後に退院出来た.しかし看取りケア開始90日後に死亡した.当施設の入院加療しない入所者の死亡率は15.3%で全国平均の37.2%に比べて低かった(p<0.01).総括:特養で看取りケアをスムースに行うには病診連携と職員の日頃からの医学的な知識の蓄積が重要である.特養に勤務する医師はこれらの諸点に留意しながら職員の研修や指導を行いながら終末期ケアに取り組むことが肝要である.