- 著者
-
善如寺 俊幸
渡辺 裕司
- 出版者
- 東京外国語大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1996
世界の文字教育に関し、教育法を含む各種各様の実態を調査したうえで、非漢字文化圏からの留学生に現在のところ最も有効と思われる教授法に基づいて、漢字教材を開発作成した。世界数カ国の文字教育の実態を調査したところ、結果は予想を裏付ける形となり、非漢字文化圏諸国が多くても50字に届かない数の文字を3カ月から1年の間に学習し終えるのに対し、漢字文化図諸国では発音記号もしくは文字の他に国によって1000から3500に及ぶ漢字の読み書きを6乃至7年に亙って学習し続け、更にこれに続く3年間を読みあるいは熟語の学習を主軸とした1000字から2000字の漢字学習に当てるにもかかわらず、それでも文字習得が完結するわけではないという各々の実態が比較概観できた。こうした実態から翻って留学生の日本語文字教育を見るとき、非漢字文化圏からの留学生が日本語の文字学習別けても漢字学習に臨む際の気の遠くなるような絶望感にも似た無力感の一端が実感できるのである。これら調査結果を礎に、漢字学習が決して漠として杳とした際限のないものではなく、漢字の創成に着目すれば漢字の系統的相関も明解になり、積み上げ式の漢字学習が可能になることを、教材を通して分かりやすく示した。また、非漢字文化圏の留学生に対して、現在考えうる最も有効なコンピュータ教材のモデルも試行的に作成した。これは漢字の字源のイメージ(原像)を記号化する過程、即ち漢字の創成過程を映像として知覚認知させることによって漢字の字形と字義を同時に記憶させる速習法で、対留学生日本語教育は言うに及ばず、広く国語教育にも帰国子女教育にも活用でき、その汎用性は極めて高い。