著者
喜多 富太郎 秦 多恵子 米田 良三
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.573-584, 1976 (Released:2007-03-29)
参考文献数
27
被引用文献数
36 22

本論文においては,神経鎮静剤ノイロトロピン(NSPと略)の鎮痛作用を調べ,次いでSARTストレスマウスと正常マウスにおける薬物の鎮痛効果の比較検討を行なった.a)正常マウスにNSPを単独で用いると,酢酸法,フエニルキノン法およびRandall-Selitto法において弱い鎮痛作用が認められた.D'Amour-Smith法では無効であった.b)酢酸法およびフエニルキノン法で効力を調べるとNSPは下熱性鎮痛薬アミノピリンと相加的協力作用を示し,麻薬性鎮痛薬モルフィンと非平行的協力作用を示した.Randall-Selitto法によってはNSPとアミノピリンの併用効果は認められなかった.次に,すでにわれわれが報告した実験的自律神経失調症様動物であるSARTストレスマウスを用いて薬物の鎮痛作用を調べた.なお,SARTストレスマウスにおいては多少痛覚閾値低下の傾向が見られた.c)酢酸法においてモルフィン,NSP,レボメプPマジンおよびイミダゾール酢酸が,d)フエニルキノン法においてはモルフィン,NSP,レボメプロマジンおよびL-GABOBが,e)D'Amour-Smith法ではNSPのみが,また,f)Randall-Selitto法ではアミノピリン,NSP,レボメプFマジン,イミダゾール酢酸およびL-GABOBが,SARTストレスマウスにおいて正常マウスにおけるよりも著しく強い鎮痛作用を示した.9)アトロピン,セロトニン,ヒスタミン,タウリンおよび3-amino-2-hydroxypropane-1-sulfonic acidは正常およびSARTストレスマウスにおいて鎮痛効果の差異は認められなかった.以上のごとくSARTストレスマウスでは薬物の鎮痛作用が正常マウスにおけるよりも著明に認められ,特にNSPについてはこの傾向が明瞭であった.このことはNSPの臨床上の著しい鎮痛効果を裏付けるものといえよう.
著者
喜多 富太郎 秦 多恵子 米田 良三 尾陰 多津子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.195-210, 1975 (Released:2007-03-29)
参考文献数
48
被引用文献数
58 52

環境温度の変動に対して生体機能はどのように対応するかについては未だ充分わかっていない.そこでわれわれは実験動物の環境温度条件をいろいろと変動させ,その影響を精査した.すなわち「マウス(またはラット)を午前10時から午後5時までは1時間毎に24°Cと8°C(または-3°C)を交互に,次いで午後5時から翌日の午前10時までは8°C(または-3°C)で飼育する」という環境温度リズムの変動(ARTと略)の条件下でマウスまたはラットを飼育した.このテストはマウスやラットを強度のストレス状態にした.そしてわれわれはこの強度のストレスを特異的なARTストレス(SARTストレスと略)と呼ぶことにした.SARTストレスマウスならびにラットでは体重増加がほとんど見られず,呼吸数および心拍数がわずかに増加し,QRS時間が延長した.SARTストレスマウスでは,Magnus氏法で調べた摘出十二指腸管のACh感受性は正常値に比べ著しく低下していた.SARTストレスラットの解剖所見では,脾の湿重量は正常値より軽かった.しかし,肺・心・肝・胃・腎および副腎のそれは正常値に近かった.これらの臓器を巨視的に観察すると,肺には赤褐色の斑点が,心室には肥大が,また胃粘膜内面には軽度の塵瀾と充血が認められた.次に皮膚電気反射(GSRと略)では,SARTストレスラットの皮膚電気抵抗値は正常ラットのそれより小さく,外部刺激によって誘発された抵抗値の変化は大きく,またその回復時間は正常ラットのそれより短かかった.以上の結果から,SARTストレスは一種の病態と考えられ,そして人間で温度の急変によって惹起されるストレス状態を代弁するに充分な理由を持っているといえよう。
著者
秦 多恵子 川畑 篤史 伊藤 栄次 喜多 富太郎
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.29, no.7, pp.651-658, 1989-12-01
被引用文献数
1

自律神経失調症の1モデル動物であるSARTストレスマウスでは, 血小板数減少, 骨髄巨核球数増加および出血時間の延長が既に報告されている。今回はこれらの現象について, SARTストレスとは異なったタイプのストレスを負荷した動物との比較の観点から, さらに詳細な検討を行った。1)ラットにおいても, マウスの場合と同様, SARTストレスによる血小板数減少は認められた。2)2日間の寒冷ストレス負荷によって血小板数の増加がみられたが, 1時間負荷および5日間の負荷では無変化であった。急性の拘束水浸ストレスマウスでは血小板数減少が認められた。電気ショックおよび拘束ストレスを急性的に負荷すると血小板数の増加が認められたが, 慢性的に負荷すると急性時の変化は消失していた。3)骨髄巨核数はSARTストレス以外のストレスによっては変化しなかった。4)拘束水浸ストレスによる血小板数の減少はストレス負荷中止3時間後には完全に回復していたが, SARTストレスによるそれは中止後5日経過してもなお認められた。5)SARTストレスにより出血時間は2倍以上に延長したが, 拘束水浸ストレスによっては約35%の延長が認められたのみであった。6-Hydroxydopamineにより体表面血流量の増加を来したマウスでは, 約50%の出血時間延長が認められた。以上の成績より, 自律神経失調症を伴ったSARTストレス動物における血小板数減少は, このストレスの1つの特徴であると考えられる。また, SARTストレスによる出血時間の延長には血小板数減少のほか, 血流量の増加も関与している可能性が示唆される。