著者
川畑 篤史 坪田 真帆 関口 富美子 辻田 隆一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.154, no.5, pp.236-240, 2019 (Released:2019-11-15)
参考文献数
31
被引用文献数
1

化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)はがん患者のQOLを著しく損ない,治療の継続を困難にする可能性のある有害事象であるが,現在,CIPNを回避する有効な対策はほとんどない.そのためCIPNの発症メカニズムを解明し,臨床応用可能なCIPN発症抑制薬・治療薬を開発することは喫緊の課題である.我々は,CIPNの発症にdamage-associated molecular pattern(DAMP)タンパク質の1つであるhigh mobility group box 1(HMGB1)が関与することを明らかにしている.また,日本において播種性血管内凝固症候群(DIC)治療薬として承認されているthrombomodulin αが,抗がん薬投与に伴って細胞外に放出されるHMGB1をトロンビン依存的に分解することでCIPNの発症を阻止できることを報告している.このように,HMGB1あるいはその受容体を標的とする薬物を用いることで近い将来CIPNの発症を抑制できるようになることを期待したい.
著者
川畑 篤史
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.121, no.6, pp.411-420, 2003 (Released:2003-05-29)
参考文献数
85
被引用文献数
3 7

Protease-activated receptor(PAR)は特定のプロテアーゼによって特異的に活性化される三量体Gタンパクと共役した7回膜貫通型受容体である.現在までにクローニングされている4つのPARファミリーメンバーのうち,トリプシン,トリプターゼ,血液凝固第VIIa,Xa因子などによって活性化されるPAR-2(protease-activated receptor-2)は生体内に広く分布し,種々の機能の制御に関与している.消化器系では,PAR-2は胃粘膜保護,平滑筋運動制御,唾液腺および膵外分泌,腸におけるイオン輸送などに関与している.循環器系では,PAR-2は血管内皮に存在し,その活性化によりNOあるいは血管内皮由来過分極因子を介する弛緩反応を誘起し,血圧を低下させる.呼吸器系では,PAR-2は抗炎症的な面と炎症促進的な面を併せ持つようである.神経系では,PAR-2は特にカプサイシン感受性一次知覚神経に存在し痛みの情報伝達に関与している.このようにPAR-2は生体内において非常に多様な機能を有しており,創薬研究のための標的分子として注目されている.
著者
川畑 篤史
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.141, no.2, pp.81-84, 2013 (Released:2013-02-08)
参考文献数
27
被引用文献数
6 8

がん化学療法の副作用として生じる神経障害性疼痛は,患者のQOL低下を招くだけでなく,化学療法の中止の原因にもなりうるので,その対策は急務である.神経障害性疼痛薬物療法の第一選択薬とされているプレガバリンは,高電位活性化型Ca2+チャネルのα2δサブユニットを標的とした薬物であるが,プレガバリンが作用しないT型(低電位活性化型)Ca2+チャネルのうちCav3.2が神経障害性疼痛の病態に関与することが明らかとなり,T型Ca2+チャネル阻害薬が神経障害性疼痛の治療に応用できる可能性が示唆されている.Cav3.2は,内因性気体メディエーターである硫化水素やL-システインによって直接活性化され,またプロスタグランジンE2によりプロテインキナーゼA依存的に活性化されるほか,生体内のZn2+やビタミンCによって機能が抑制される.本稿では,Cav3.2 T型Ca2+チャネルの分子機能調節機構を概説し,特にがん化学療法に伴う神経障害性疼痛の治療標的分子としての可能性について述べる.
著者
山本 卓資 松野 純男 笠波 嘉人 榊原 幹夫 岡田 啓 川畑 篤史
出版者
一般社団法人 日本薬局学会
雑誌
薬局薬学 (ISSN:18843077)
巻号頁・発行日
pp.cr.2021-0003, (Released:2021-06-14)
参考文献数
9

在宅訪問薬剤師が心不全を合併する患者における薬剤の副作用を観察し,医師に処方提案した.2018 年 4 月,85 歳女性に対し,薬物の副作用と主訴との関連を調査し,高血圧,食欲低下,徐脈等が認められた.ジゴキシンの血中濃度が中毒域であり,収縮期血圧 160~200 mmHg,脈拍 40~50 回 / 分であるため,医師と中止検討を行った.その結果,同年 5 月には収縮期血圧 120~130 mmHg,脈拍 60~70 回 / 分と改善した.その後,同年 8 月,頻脈(脈拍 110 回 / 分)があり,ベラパミルが追加された.在宅訪問薬剤師が呼吸音の聴取,体重等の結果を処方医師に情報提供した.その結果,ベラパミルを頓用に変更,ロキソプロフェンナトリウムも中止となった.薬剤による副作用の可能性の判断を行うのは,医療専門職以外の介護者には困難である.そのため,在宅訪問薬剤師による介入,医師への情報提供は重要である.
著者
秦 多恵子 川畑 篤史 伊藤 栄次 喜多 富太郎
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.29, no.7, pp.651-658, 1989-12-01
被引用文献数
1

自律神経失調症の1モデル動物であるSARTストレスマウスでは, 血小板数減少, 骨髄巨核球数増加および出血時間の延長が既に報告されている。今回はこれらの現象について, SARTストレスとは異なったタイプのストレスを負荷した動物との比較の観点から, さらに詳細な検討を行った。1)ラットにおいても, マウスの場合と同様, SARTストレスによる血小板数減少は認められた。2)2日間の寒冷ストレス負荷によって血小板数の増加がみられたが, 1時間負荷および5日間の負荷では無変化であった。急性の拘束水浸ストレスマウスでは血小板数減少が認められた。電気ショックおよび拘束ストレスを急性的に負荷すると血小板数の増加が認められたが, 慢性的に負荷すると急性時の変化は消失していた。3)骨髄巨核数はSARTストレス以外のストレスによっては変化しなかった。4)拘束水浸ストレスによる血小板数の減少はストレス負荷中止3時間後には完全に回復していたが, SARTストレスによるそれは中止後5日経過してもなお認められた。5)SARTストレスにより出血時間は2倍以上に延長したが, 拘束水浸ストレスによっては約35%の延長が認められたのみであった。6-Hydroxydopamineにより体表面血流量の増加を来したマウスでは, 約50%の出血時間延長が認められた。以上の成績より, 自律神経失調症を伴ったSARTストレス動物における血小板数減少は, このストレスの1つの特徴であると考えられる。また, SARTストレスによる出血時間の延長には血小板数減少のほか, 血流量の増加も関与している可能性が示唆される。