- 著者
-
嘉原 優子
- 出版者
- 中部大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2004
バリ(インドネシア)とラオスにおいては、公的教育機関や私的サークルにおける一対多の舞踊伝承形態を、従来の師と弟子といった一対一の関係の教授形態と比較し、民族舞踊を中心とした伝統芸能の伝承システムの変化について考察した。バリでは、30代から70代の6名の女性舞踊家へのインタヴュー内容を比較検討し、各世代の女性舞踊家の舞踊習得過程を明らかにした上で、民族舞踊の伝承システムの現代的変容が伝統文化に与えた影響について考察した。ラオスでは、国立音楽舞踊学校の現状を調査し、卒業生たちの舞踊家としての将来が、今後の観光業の発展に支配さていることを明らかにした。しかしながら、現時点では、バリでみられるような新しい観光文化の創出には至っておらず、現状では近隣諸国における観光産業の模倣としてのラーマーヤナ復活にとどまっている。日本では、東美濃地域の農村歌舞伎と奥三河花祭りの伝承の現状を調べた。農村歌舞伎は、戦中戦後の中断をはさんで、近年、盛んに演じられるようになっているが、かつて村人の最大の娯楽のひとつであった歌舞伎が、過疎化・少子化の進む現状にあって、行政から地域活性化の機能を担わされていることがわかる。また、奥三河の花祭りでは、過疎化の進む地域を超えて、地域外の伝統芸能に関心を抱く人々によっても伝承され、その一部の人々は実際に祭礼を支えていることが確認された。農村歌舞伎、花祭りのいずれもが、学校教育との関係を築き上げ、教育の一環として地域の伝統を伝承していこうと試みている。日本と、バリ・ラオスにおける民族舞踊伝承の現状における相違は、前者が地域に伝わる伝統芸能をもっぱら地域活性化のために活用しようとしているのに対して、後者は同じく地域の活性化を目的としてはいても、それが現金収入を得るためといった個人的な目的のための手段としても捉えられている傾向が強い点にある。