著者
的場 梁次 藤谷 登 四方 一郎
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

(1)5週令雄性マウスにメタンフェタミン(MA)を5,10,20mg/体重1kg2週間及び4週間皮下投与し, 心臓の光顕的, 電顕的観察を行った. 同時に対照として同量の生食及びノルアドレナリンを体重あたり1mg投与して心病変を比較検討した. その結果MA投与により光顕で心筋肥大, 萎縮, 融解, 収縮帯壊死, 空胞変性, 酸酸性変性, 錯走配列, 出血, 間質浮腫, 線維化, 小円形細胞浸潤などの心病変が認められたが, その程度は概ね投与期間や投与量に比例していた. また, 電顕では細胞膜の不整化, 筋原線維の増加, 過収縮, 錯綜配列, 幅の広いZ帯, ミトコンドリアの集蔟や変性, 及び筋小胞体の拡張が見られ, 細胞膜直下の多数の小胞体(Surface vesicle)が目立った. 対照のノルアドレナリン投与においても, これら同様変化が認められたが, その程度は弱かった. (2)プロブラノロール(β-blockcr)1mg/体重1kg及びベラパミル1mg/体重1kgをMA投与30分前に投薬した心病変を観察したところ, 上記MA投与時の心病変はほとんど認められなかった. (3)心筋ミオシンのアイソザイムについてHohらの方法を用いて検討したところ, 生食のみを投与した群と同様, MA投与群においてもV_1優位のパターンであった. (4)最近10年間の剖検覚醒剤中毒者26例の心臓組織を検索したところ, 15例の症別において肥大, 線維化, 錯綜配列などの病変が確認された.以上の実験並びに人死例の検索において認められたことにより, ヒト慢性覚醒剤中毒者に認められる心病変はMAの心毒性作用によるものと考えられ, その発因機序としてはMAの主作用である神経末端からのカテコールアミンの放出によるものと考えられる. 更に, 本病変をCa-antagonistで抑えられることや電顕における筋小胞体の拡張所見などより, 本病変にCa-Overloarlが関与している可能性が窺われ, これら心筋病変が肥大型心筋症と類似している点があること等は興味深いと思われる.