著者
逢坂 隆子 坂井 芳夫 黒田 研二 的場 梁次
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.50, no.8, pp.686-696, 2003 (Released:2014-12-10)
参考文献数
32
被引用文献数
3 12

目的 近年都市部で急増しているホームレス者の,死亡前後の生活・社会経済的状況ならびに死因・解剖結果を明らかにする。方法 2000年に大阪市内で発生したホームレス者の死亡について,大阪府監察医事務所・大阪大学法医学講座の資料をもとに分析した。野宿現場を確認できているか,発見時の状況から野宿生活者と推測される者および野宿予備集団として簡易宿泊所投宿中の者の死亡をホームレス者の死亡として分析対象にすると共に,併せて野宿生活者と簡易宿泊所投宿者の死亡間の比較を行った。成績 大阪市において,2000年の 1 年間に294例(うち女 5 例)のホームレス者(簡易宿泊所投宿中の者81例を含む)の死亡があったことが確認された。死亡時の平均年齢は56.2歳と若かった。死亡時所持金が確認された人のうちでは,所持金1,000円未満が約半数を占めていた。死亡の種類は,病死172例(59%),自殺47例(16%),餓死・凍死を含む不慮の外因死43例(15%),他殺 6 例(2%)であった。病死の死因は心疾患,肝炎・肝硬変,肺炎,肺結核,脳血管疾患,栄養失調症,悪性新生物,胃・十二指腸潰瘍の順であった。栄養失調症 9 例・餓死 8 例・凍死19例は全て40歳代以上で,60歳代が最多であった。これらの死亡者についての死亡時所持金は,他死因による死亡時の所持金より有意に少なかった。栄養失調症・餓死は各月に散らばるが,凍死は 2 月を中心に寒冷期に集中していた。全国男を基準とした野宿生活者男の標準化死亡比(全国男=1)は,総死因3.6,心疾患3.3,肺炎4.5,結核44.8,肝炎・肝硬変4.1,胃・十二指腸潰瘍8.6,自殺6.0,他殺78.9などいずれも全国男よりも有意に高かった。結論 ホームレス者の死亡平均年齢は56.2歳という若さである。肺炎,餓死,凍死をはじめ,総じて予防可能な死因による死亡が極めて多く,必要な医療および生命を維持するための最低限の食や住が保障されていない中での死亡であることを示唆している。
著者
岩佐 峰雄 的場 梁次
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

Y染色体上のSTR多型による親子鑑定システムの開発の一環として、本年度は特にDYS390の日本人集団におけるアリル頻度を調査した。血縁関係のない日本人117名の血液からChelex-100によりDNAを抽出した。PCR増幅は3ngの鋳型DNAを用い、総量25μlの反応液中で定法に従って行った。用いたプライマーは、P1:5'TATATTTTACATTTTTGGGCC3'およびP2:5'GACAGTAAAATGAACACATTGC3'で、型判定はポリアクリルアミドゲル電気泳動と銀染色によった。また、各アリルの塩基配列は、Dye Terminator Cycle Sequencingキットによった。今回の調査で認められた6種類のアリルの塩基配列は、5-primer(23bp)-27bp-(CTAT)_2-(CTGT)_8-(CTAT)_n-CTG(TCTA)_3-TCAATC-(ATCT)_3-25bp-primer(22bp)-3'であり、CTATの4塩基(アンダーラインで示した)の繰り返し数は8回から13回(即ち、n=8-13)で、各アリルの総塩基数は、8;202bp;9;206bp;10;210bp;11;214bp;12;218bp13;222bpと算出された。CTATの繰り返し数を各アリルの名称とすると、アリルの出現頻度は、8;0.017;9;0.154;10;0.248;11;0.291;12;0.239;13;0.051であり、以前調査したドイツ人集団における成績(8;0.026;9;0.158;10;0.263;11;0.368;12;0.175;13;0.051)との間に有為な差は認められなかった(x^2=5.370,df=5.P>0.05)。一方、DYS389の日本人集団におけるアリルの頻度は、DYS389Iでは、8:0.018;9;0.161;10;0.268;11;0.527;12;0.027であり、DYS389IIでは、23:0.029;24:0.105;0.229;26:0.324;27:0.248;28:0.048;29:0.010;30:0.010であった。Jones(1972)によるDiscrimination powerはDYS389Iでは0.624、DYS389IIでは0.767で、両者のCombined discrimination powerは0.912と算出された。ダイレクトシークエンス法でDYS389アリルの塩基配列を決定しようとすると、判読不可能な個所が複数個所あらわれ、各アリルの塩基配列の全体像を把握することはできなかった。Y染色体上のSTRの法医学実務における応用として、司法解剖得た膣内容からDYS390およびDYS389の検出を試みた。試料とした15例のうち4例でDYS390の増幅が認められ、これらの試料では顕微鏡検査によって精子も確認された。なお、DYS389はいずれの試料でも増幅することができなかった。次に環境変化の影響を検する目的で、加熱処理した歯牙から得た歯髄よりDNAを抽出し、DYS390およびDYS389の検出を試みた。DYS390は、300℃2分の加熱では6例全例で、400℃2分の加熱では7例中1例で増幅可能であった。海中にほぼ1年間放置され、白骨化した遺体の長官骨骨髄のDNAについてDYS390が増幅可能であった。Y染色体上のSTRによる親子鑑定では、父親と男子間のみに限定されるものの、そのシステムは極めて単純化される。即ち、男子の型から父親の型は常に1つに決定されるので、母子結合確率と擬父と同じ遺伝子型の真の父の出現頻度は等しいことから、父権肯定確率=1/(1+擬父の型の遺伝子頻度)として計算されることとなる。
著者
的場 梁次
出版者
日本法医学会
雑誌
日本法医学雑誌 (ISSN:00471887)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.321-330, 2001-11-05
参考文献数
26
被引用文献数
3
著者
逢坂 隆子 坂井 芳夫 黒田 研二 的場 梁次
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.50, no.8, pp.686-696, 2003

<b>目的</b>&emsp;近年都市部で急増しているホームレス者の,死亡前後の生活・社会経済的状況ならびに死因・解剖結果を明らかにする。<br/><b>方法</b>&emsp;2000年に大阪市内で発生したホームレス者の死亡について,大阪府監察医事務所・大阪大学法医学講座の資料をもとに分析した。野宿現場を確認できているか,発見時の状況から野宿生活者と推測される者および野宿予備集団として簡易宿泊所投宿中の者の死亡をホームレス者の死亡として分析対象にすると共に,併せて野宿生活者と簡易宿泊所投宿者の死亡間の比較を行った。<br/><b>成績</b>&emsp;大阪市において,2000年の 1 年間に294例(うち女 5 例)のホームレス者(簡易宿泊所投宿中の者81例を含む)の死亡があったことが確認された。死亡時の平均年齢は56.2歳と若かった。死亡時所持金が確認された人のうちでは,所持金1,000円未満が約半数を占めていた。死亡の種類は,病死172例(59%),自殺47例(16%),餓死・凍死を含む不慮の外因死43例(15%),他殺 6 例(2%)であった。病死の死因は心疾患,肝炎・肝硬変,肺炎,肺結核,脳血管疾患,栄養失調症,悪性新生物,胃・十二指腸潰瘍の順であった。栄養失調症 9 例・餓死 8 例・凍死19例は全て40歳代以上で,60歳代が最多であった。これらの死亡者についての死亡時所持金は,他死因による死亡時の所持金より有意に少なかった。栄養失調症・餓死は各月に散らばるが,凍死は 2 月を中心に寒冷期に集中していた。全国男を基準とした野宿生活者男の標準化死亡比(全国男=1)は,総死因3.6,心疾患3.3,肺炎4.5,結核44.8,肝炎・肝硬変4.1,胃・十二指腸潰瘍8.6,自殺6.0,他殺78.9などいずれも全国男よりも有意に高かった。<br/><b>結論</b>&emsp;ホームレス者の死亡平均年齢は56.2歳という若さである。肺炎,餓死,凍死をはじめ,総じて予防可能な死因による死亡が極めて多く,必要な医療および生命を維持するための最低限の食や住が保障されていない中での死亡であることを示唆している。
著者
的場 梁次 藤谷 登 四方 一郎
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

(1)5週令雄性マウスにメタンフェタミン(MA)を5,10,20mg/体重1kg2週間及び4週間皮下投与し, 心臓の光顕的, 電顕的観察を行った. 同時に対照として同量の生食及びノルアドレナリンを体重あたり1mg投与して心病変を比較検討した. その結果MA投与により光顕で心筋肥大, 萎縮, 融解, 収縮帯壊死, 空胞変性, 酸酸性変性, 錯走配列, 出血, 間質浮腫, 線維化, 小円形細胞浸潤などの心病変が認められたが, その程度は概ね投与期間や投与量に比例していた. また, 電顕では細胞膜の不整化, 筋原線維の増加, 過収縮, 錯綜配列, 幅の広いZ帯, ミトコンドリアの集蔟や変性, 及び筋小胞体の拡張が見られ, 細胞膜直下の多数の小胞体(Surface vesicle)が目立った. 対照のノルアドレナリン投与においても, これら同様変化が認められたが, その程度は弱かった. (2)プロブラノロール(β-blockcr)1mg/体重1kg及びベラパミル1mg/体重1kgをMA投与30分前に投薬した心病変を観察したところ, 上記MA投与時の心病変はほとんど認められなかった. (3)心筋ミオシンのアイソザイムについてHohらの方法を用いて検討したところ, 生食のみを投与した群と同様, MA投与群においてもV_1優位のパターンであった. (4)最近10年間の剖検覚醒剤中毒者26例の心臓組織を検索したところ, 15例の症別において肥大, 線維化, 錯綜配列などの病変が確認された.以上の実験並びに人死例の検索において認められたことにより, ヒト慢性覚醒剤中毒者に認められる心病変はMAの心毒性作用によるものと考えられ, その発因機序としてはMAの主作用である神経末端からのカテコールアミンの放出によるものと考えられる. 更に, 本病変をCa-antagonistで抑えられることや電顕における筋小胞体の拡張所見などより, 本病変にCa-Overloarlが関与している可能性が窺われ, これら心筋病変が肥大型心筋症と類似している点があること等は興味深いと思われる.