著者
四方 幸子 今 智司
出版者
協創&競争サステナビリティ学会
雑誌
場の科学 (ISSN:24343766)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.4-36, 2022 (Released:2022-02-23)

「価値」は自ら創り出していくものである。水、人、都市、気象等の様々な現象とその関係性を情報のフローという視点から注目し、メディアアートや様々な分野を横断した活動のキュレーションをする中で、新しいアートの表現領域と新しいメディウムとの接続領域を追求したとき「価値は自分で創るもの」であると認識した。既存の価値とは別の価値を創り出すことが重要なのである。そして、物は何らかの形で情報が集積して構成されている。情報の流れが組織化し、時には形態や物になり、それらがまた分散して流れていく。そのため、近代以降確立されてきた様々なシステム(仕事の方法、大学、美術、科学等)も変容する。これまでのマクロな基盤のシステムから抜け出し、様々な情報のフローを基に臨機応変に個々人が判断して行動する世界、他者と協力しトライ&エラーで世界観を変えていくような時代のシステム、つまり現代は「inter-dependence(相互依存性)」に基づくシステムへ変容しつつある。そこでは個人の自律が必要だろう。 ところでヨーゼフ・ボイスは社会彫刻やエネルギーの流動など「変容」を扱っていた。彼は変化を前提にした作品や彫刻を作製し、「人は誰でも芸術家である」「拡張された芸術概念」「社会彫刻」という方向性を追求していた。四方は、アートの領域にこだわらずアートを様々な社会の領域に浸透させていくために、ヨーゼフ・ボイスの現在性についてあらためて考え、人間だけでなく、動植物や石、生態系までにも及ぶ『人間と非人間のためのエコゾフィーと平和』を今年からの生涯目標にして活動している。情報が流れて物となり、それが崩れていくという情報のフローや情報のプロセスを中心にしたインタラクティブ・アートのキュレーションを1990年代から行い、あらゆる物・現象を様々なエネルギーの流動や絡まり合いのプロセスとして捉える視点から、デジタルを得た21世紀においてボイスを新たにアップデートすることができるのではないか。 また、キヤノン・アートラボではキュレーター、アーティスト、エンジニアがフラットな関係でコミュニケーションしたコラボレーションを実現した。例えば、人間の心拍や脳波等の身体情報、あるいは人間の視線の動き等の情報に応じ、出力内容を生成若しくは変化させるような様々なインタラクティブな作品、アートでしか実現できない形のバーチャルリアリティ(VR)の使い方を示した作品、実在の様々なモノ・コトを情報のフローとしてとらえた作品、等々である。デジタル技術を用い、人間の身体の延長としての新たな「環境(場)」が創り出されるような様々なアート作品が創作された。この経験を踏まえると、世界が物や形態等で成立しているのではなく、何らかのシンプルなシステムがあり、そのシステムが稼働することによって様々な形態やパターンという情報の流れが発生する。様々なモノ・コトを情報のフローとして考える世界観が成り立つ。素材やメディウムを越え、デジタルとアナログ、生命と非生命、カオスと秩序、物質と非物質等の分岐を超え、両者の境界が曖昧になってきているという視点が重要だ。あらためて情報のフローで見ると、形態をなすこと、固体になること、物質化すること等に続き、それらが再び分散していくというカオスと秩序との間を常に移動するという世界観が現れる。メディアアートには、私たちの生きる世界がシンプルなルールの相互作用によって複雑に生成し続けていることを気づかせてくれる重要な役割があるだろう。
著者
玉川 和子 櫛田 壽恵 四方 幸子
出版者
一般社団法人 日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.49-61, 2002-02-20 (Released:2013-04-26)
参考文献数
15

カトマンズ近郊の農村地区の食生活を料理の特徴と料理組合わせ評価を中心に研究してきた。(1)食形態は1日2回の食事と,2回の軽食で構成されている。(2)食品の摂取状況は1日に米322gと,その他の穀類142gで,穀類の30%をその他の穀類が占めている。また総穀類の摂取量が多くなるほど,その他の穀類の摂取割合が増えていた。(3)主食は,米,とうもろこし,小麦粉が中心であった。主食は毎食必ず摂っていて,その内容はめし,チューラ,ロティ,ディドであった。さらに両地区ともめしが80%であった。軽食はミルクティにパン,チューラ,とうもろこし(粒および粉)であった。また軽食に関しては両地区の差は大きく,C村はパンが多く,B村はロティが多くみられた。(4)副食はカレー,ダルスープ,アチャールといった固定的な料理の組合せパターンを示している。しかし料理が毎食3品揃っている世帯は16%しかない。カレーの喫食状況はタルカリとサーグで95%を占め,肉を用いたマスは殆どない。カレーは殆どの世帯で毎食食べている。ダルスープは3日間のうち1回も食べていない世帯が17.9%で平均では3日間で3~4回であり,アチャールはダルスープより比較的よく食べられていた。これらの傾向は季節による料理の組み合わせは変わらない。料理に用いられる野菜の種類が変わるだけであった。60(60)カトマンズ近郊の農村地区の食生活調査(第1報)(5)(食事)料理組合わせ評価と,(軽食)料理組合わせ評価との関係を見ると,食事の組合わせ評価の低いものは軽食評価が低い傾向を示したが,B村では食事評価点が高い低いに関わらず,軽食評価が低く,軽食は常に簡単にすませていることがわかる。(6)(食事)料理組合わせ評価点の値が高い低いに関わらず,エネルギーおよびたんぱく質の摂取量は変わらない。これは動たん比が低いことからも判るように,穀類を中心とする食事内容が原因である。しかし評価点が高くなるほど食品数が増加し,微量栄養素の摂取量に影響すると考える。(7)米と豆,野菜を中心とする文化の中でカレー,ダルスープ,アチャールという伝統的な食事パターンを守り,できるだけ食品数を多く摂取することが,栄養のバランスを改善することにっながり,常にミルクティーを飲む習慣を大切にすることが,少しでも動たん比を上げることになる。