著者
中山 敬太
出版者
協創&競争サステナビリティ学会
雑誌
場の科学 (ISSN:24343766)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.42-62, 2022 (Released:2022-07-01)

萌芽的科学技術の科学的不確実性を伴うリスク対する予防的措置に関して、本稿ではナノテクノロジーを事例として、その規制対象を「テクノロジー」と「マテリアル」の要素に区分し、科学技術の「機能」や「性質」にも考慮した上で、規制対象を区分せずに予防的措置を講じた場合と比べ、社会的許容性と妥当性を相対的に担保し、社会的不都合性が生じることをより軽減するアプローチに繋がる可能性があることを明らかにした。また、既にナノテクノロジーに関して規制措置を定めるEU等の諸外国に対して、日本では具体的な予防的措置は講じられていない状況下で、今後のナノテクノロジー規制の展望に関して政策的示唆を含め新たな視座を示した。
著者
今 智司
出版者
協創&競争サステナビリティ学会
雑誌
場の科学 (ISSN:24343766)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.45-59, 2021 (Released:2021-09-23)

様々な事例からリアルとバーチャルとの接合で両者の違いを際立たせる社会的要素が「知覚野域」である。ただし、現状では視覚及び聴覚が中心であり、味覚や嗅覚の技術による伝達は可能であるものの個々人によって異なる固有覚等の伝達は困難である。そのため、リアルをバーチャルで再現するというよりもリアルとバーチャルとの接合領域を考え、接合領域における「不完全な状態」(Mal-being)から「現状より満たされた状態」(Well-being)への移行を考えるべきである。その場合において、バーチャルとリアルとを結びつけて相互作用させる「場」の形成が重要であり、係る「場」の形成においては、Code-1 参入退出自由の原則、Code-2 機会均等の原則、Code-3 参加者外への波及伝搬の容認、の少なくとも3つの原則が必要であろう。
著者
中山 敬太
出版者
協創&競争サステナビリティ学会
雑誌
場の科学 (ISSN:24343766)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.58-80, 2023-05-31 (Released:2023-07-25)

本稿では、福島第一原発事故後の「復興と廃炉の両立」理念の一環として行政機関による計画および実施されているALPS処理水の海洋放出と放射能汚染土の再生利用には、双方に共通する構造的問題やその被害メカニズム(「構造的暴力」を含む)が存在し、行政側の各対応策の計画・実施に至るリスク意思決定プロセスにおけるロジック構造やその欠陥(具体的かつ明確な法律に基づく実施計画ではない点など)にも共通点を見い出し明らかにした。とりわけ、「根拠規定」、「リスクコミュニケーションの状況」、「不確実性の種類」、そして「リスク・トレードオフの有無」の4つの要素に関して、福島原発事故対策をめぐる双方の本質的な構造的問題をもたらしている根本的な要因である可能性を指摘し、その上で日本の安全・安心行政の課題を提示し、当該問題領域における法政策学上の新たな視座を示した。
著者
四方 幸子 今 智司
出版者
協創&競争サステナビリティ学会
雑誌
場の科学 (ISSN:24343766)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.4-36, 2022 (Released:2022-02-23)

「価値」は自ら創り出していくものである。水、人、都市、気象等の様々な現象とその関係性を情報のフローという視点から注目し、メディアアートや様々な分野を横断した活動のキュレーションをする中で、新しいアートの表現領域と新しいメディウムとの接続領域を追求したとき「価値は自分で創るもの」であると認識した。既存の価値とは別の価値を創り出すことが重要なのである。そして、物は何らかの形で情報が集積して構成されている。情報の流れが組織化し、時には形態や物になり、それらがまた分散して流れていく。そのため、近代以降確立されてきた様々なシステム(仕事の方法、大学、美術、科学等)も変容する。これまでのマクロな基盤のシステムから抜け出し、様々な情報のフローを基に臨機応変に個々人が判断して行動する世界、他者と協力しトライ&エラーで世界観を変えていくような時代のシステム、つまり現代は「inter-dependence(相互依存性)」に基づくシステムへ変容しつつある。そこでは個人の自律が必要だろう。 ところでヨーゼフ・ボイスは社会彫刻やエネルギーの流動など「変容」を扱っていた。彼は変化を前提にした作品や彫刻を作製し、「人は誰でも芸術家である」「拡張された芸術概念」「社会彫刻」という方向性を追求していた。四方は、アートの領域にこだわらずアートを様々な社会の領域に浸透させていくために、ヨーゼフ・ボイスの現在性についてあらためて考え、人間だけでなく、動植物や石、生態系までにも及ぶ『人間と非人間のためのエコゾフィーと平和』を今年からの生涯目標にして活動している。情報が流れて物となり、それが崩れていくという情報のフローや情報のプロセスを中心にしたインタラクティブ・アートのキュレーションを1990年代から行い、あらゆる物・現象を様々なエネルギーの流動や絡まり合いのプロセスとして捉える視点から、デジタルを得た21世紀においてボイスを新たにアップデートすることができるのではないか。 また、キヤノン・アートラボではキュレーター、アーティスト、エンジニアがフラットな関係でコミュニケーションしたコラボレーションを実現した。例えば、人間の心拍や脳波等の身体情報、あるいは人間の視線の動き等の情報に応じ、出力内容を生成若しくは変化させるような様々なインタラクティブな作品、アートでしか実現できない形のバーチャルリアリティ(VR)の使い方を示した作品、実在の様々なモノ・コトを情報のフローとしてとらえた作品、等々である。デジタル技術を用い、人間の身体の延長としての新たな「環境(場)」が創り出されるような様々なアート作品が創作された。この経験を踏まえると、世界が物や形態等で成立しているのではなく、何らかのシンプルなシステムがあり、そのシステムが稼働することによって様々な形態やパターンという情報の流れが発生する。様々なモノ・コトを情報のフローとして考える世界観が成り立つ。素材やメディウムを越え、デジタルとアナログ、生命と非生命、カオスと秩序、物質と非物質等の分岐を超え、両者の境界が曖昧になってきているという視点が重要だ。あらためて情報のフローで見ると、形態をなすこと、固体になること、物質化すること等に続き、それらが再び分散していくというカオスと秩序との間を常に移動するという世界観が現れる。メディアアートには、私たちの生きる世界がシンプルなルールの相互作用によって複雑に生成し続けていることを気づかせてくれる重要な役割があるだろう。
著者
村上 恭一
出版者
協創&競争サステナビリティ学会
雑誌
場の科学 (ISSN:24343766)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.42-57, 2023-05-31 (Released:2023-06-30)

本稿は Corporate Accelerator (CA) という非常に限られた研究しかなく先行研究において何が CA を構成するのかを定義することは困難であると指摘する現象を研究対象とする。CA は日本に輸入適応されたが日本での研究蓄積は皆無である。この現象を「場」における「講」により論究する。「場」において「与贈循環」をどのように産み出し成長へと結び付けたのかを論究した結果、CA の必須要素として「既存組織加速機能」 「内部仲介機能」「講」を提示する。これらは日本で歴史的に存在しているが研究として看過されてきた現象に光を当てるものでもある。
著者
井手 李咲
出版者
協創&競争サステナビリティ学会
雑誌
場の科学 (ISSN:24343766)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.26-41, 2023-05-31 (Released:2023-06-30)

本稿は、台湾原住民族の伝統的な知的創造の保護の枠組みを素材として、関連制度設計の在り方について検討したものである。一般的な知的創造は、多くの国や地域において知的財産法で保護されているが、知的財産法の法目的は、その多くが「産業の発達」や「文化の発展」又は「市場秩序の維持」にある。一方、先住民族の伝統的な知的創造は、一定の範囲において特定の部族により数百年の長い年月をかけて形成されたもので、先住民族の文化やアイデンティティ(自己同一性)そのものである。先住民族のこのような知的創造は、単一の価値を基準としては図り切れないはずであり、これを客体とする制度設計はその特性を踏まえたものでないと適切な保護が実現できない。台湾では、原住民族の伝統的な知的創造の特性を踏まえて特別(sui generis)立法を行い、専門機関を設けて運用しているが、本稿では当該特別立法を念頭に、事例研究も踏まえて諸課題を取りまとめた。
著者
村上 恭一
出版者
協創&競争サステナビリティ学会
雑誌
場の科学 (ISSN:24343766)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.56-68, 2022 (Released:2022-02-23)

利他概念は経営研究でまったく注目されていなかった。他方、経営実務では古くから重視されてきた。この欠落を埋めるべく利他概念について論究する。結果、「場」において「主客合一」となり行う抜苦与楽という与益が反照する互恵・互酬行為が利他であると明らかになった。 我が国における利他経営は「場」「与益」「抜苦与楽」「反照」「互恵・互酬」から構成される概念であることが示される。このことがエーザイ株式会社のhhc®(human health care)の国際経営研究比較により明らかになった。
著者
加茂 徹
出版者
協創&競争サステナビリティ学会
雑誌
場の科学 (ISSN:24343766)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.28-44, 2021 (Released:2021-09-23)

安価で軽量なプラスチックは容器包装材を中心に世界で年間約4億tが生産され約3億tが廃棄されている。現在、プラスチックの原料は石油等の化石資源であるが、近い将来、主にバイオマス等の再生可能資源から製造されると考えられる。新規に投入される資源量を最小化するため、使用済み製品の品質に応じてリユース、マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル、エネルギー回収の優先順で循環利用される。また、ライフサイクル全体を通して環境負荷を最小にすると共に、人権や生物多様性へ配慮する倫理性(Ethics)も重要となる。プラスチックは素材としての有用性を十分活かしながら、必要とされる分野に限って使用されていくと考えられる。