著者
諫山 真二 鈴木 岳 仲井 まどか 国見 裕久
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.49-57, 2011-05-25 (Released:2011-09-02)
参考文献数
20
被引用文献数
1 5

イチゴやシソを食害しているハスモンヨトウでBacillus thuringiensis製剤(以下,BT剤)の効果が低下することが知られている.本現象は植物中に含まれるポリフェノール化合物が引き起こしているものと推察されている.そこで,本研究では各種ポリフェノール化合物がBT剤の殺虫活性にどのような影響を及ぼすのか調査した.まず始めに代表的なポリフェノール化合物であるタンニン酸と没食子酸がBacillus thuringiensis serovar aizawai製剤(以下,BT剤)のハスモンヨトウ幼虫に対する殺虫活性に及ぼす影響を調査した.次に,イチゴ,シソの葉に含まれる各種ポリフェノール化合物を同定,定量するとともに,これら同定されたポリフェノール化合物がBT剤の殺虫活性に及ぼす影響について調査した.BT剤に所定濃度のタンニン酸あるいは没食子酸を添加し,ハスモンヨトウ3齢幼虫に経口投与したところ,タンニン酸の添加は濃度依存的にBT剤の殺虫活性を低下させたが,没食子酸の添加はBT剤の殺虫活性に影響を及ぼさなかった.イチゴ,シソに含まれるポリフェノール化合物を調査した結果,イチゴではエラグ酸,カテキン,ケルセチン,フェルラ酸,p-クマル酸,シソではルテオリン,アピゲニン,オイゲノール,ロスマリン酸,フェルラ酸,p-クマル酸が同定された.BT剤に所定濃度の同定されたポリフェノール化合物試薬を添加し,ハスモンヨトウ3齢幼虫に経口投与したところ,カテキン,ケルセチン,ルテオリン,アピゲニン,ロスマリン酸およびp-クマル酸の添加は濃度依存的にBT剤の殺虫活性を低下させたが,エラグ酸,オイゲノールおよびフェルラ酸の添加はBT剤の殺虫活性に影響を及ぼさなかった.殺虫活性阻害作用の認められたポリフェノール化合物の内では,ロスマリン酸の低下効果が最も高く,次いでカテキンであった.以上の結果から,イチゴではカテキンが,シソではロスマリン酸がBTa剤の殺虫活性低下をもたらす主要なポリフェノール化合物であることが示唆された.