著者
國武 絵美 小林 哲夫
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.85-96, 2016-01-31 (Released:2016-02-16)
参考文献数
91
被引用文献数
1

糸状菌は植物バイオマス(リグノセルロース)に由来する低分子の糖を細胞表層であるいは細胞内に取り込んだ後に感知し,シグナル伝達機構を介してセルラーゼやヘミセルラーゼ遺伝子の発現を転写レベルで活性化する.一方,資化しやすいグルコース等の糖の存在時にはカーボンカタボライト抑制機構が働き,転写が抑制される.このメカニズムを理解することは植物バイオマス分解酵素の効率的な生産に極めて重要である.主にAspergillus属,Trichoderma reesei,Neurospora crassaにおいてゲノムワイドな解析が行われ,遺伝子破壊株ライブラリの利用やセルラーゼ遺伝子と同時に制御される未知遺伝子の機能解析などにより,複数の転写制御因子が単離された.またその上流のシグナル伝達カスケードについても研究が進められており,セルロース性シグナルに対する応答が光や既存の調節経路により微調整されることなども示されている.このレビューではリグノセルロース分解酵素遺伝子の発現制御に関わる転写因子の機能,誘導物質の認識及びそのシグナルの伝達などの遺伝子発現誘導メカニズムに関する研究を概括した.
著者
國武 絵美 小林 哲夫
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.9, pp.532-540, 2019-09-01 (Released:2020-09-01)
参考文献数
45

糸状菌(いわゆるカビ)は生育環境中に存在するさまざまな多糖を分解してエネルギー源として利用する.近年,それぞれの多糖の分解酵素遺伝子に特異的な転写活性化因子が次々と同定され,その転写誘導メカニズムの全容も明らかになりつつある.一方でグルコースのような資化しやすい糖存在下で起こるカタボライト抑制では従来の転写抑制因子がかかわる経路とは別の新奇経路が見いだされ,この経路の関与の程度が多糖分解酵素の種類によって異なることが判明した.本稿ではこれらの転写制御機構を介して糸状菌がどのように利用する糖質の優先順位を決定づけているのかについて考察する.