著者
山本 秀人 月本 雅幸 松本 光隆 山本 真吾 土井 光祐 矢田 勉
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、和歌山県紀の川市の真言宗寺院興山寺所蔵文献の調査・研究を中核とする、和歌山県における真言宗寺院所蔵文献の実地調査と、それに基づく国語史的立場の考察・研究を主要目的とする。以下の調査研究活動を実施し、各成果があった。1.紀の川市興山寺の調査は、研究代表者・研究分担者・研究協力者の総勢13名で興山寺聖教調査団を組織し、経箱全94箱を分担して、文献毎(総計約6千点)の調書(書名、時代、装幀、寸法、訓点、奥書等調査)を作成する作業を行った。具体的には、15〜18年度に、原則4〜7日間の調査を計11回実施し(本科研支弁以前の14年度実施予備調査1回、15年度4月実施1回を含める)、18年度7月までに全94箱の調査を完了した。並行して、主要文献のデジタルカメラ撮影も行った(計129点)。これらに基づく、パソコンデータベースも18年度9月までに完成し、その冊子版文献目録も同10月に刊行した(私家版)。2.紀の川市興山寺のほか、田辺市高山寺、高野山(高野山大学図書館等)における調査も重点的に実施し、田辺市高山寺については主に主要文献の撮影を行い(計67点)、更に冊子版文献目録(本科研以前に一応の調査了、全73箱)を再調製して刊行した(私家版)。高野山においては注目される文献の実地調査を行った。ほか、京都(栂尾高山寺、仁和寺等)や東京(尊経閣文庫等)などにおける真言宗関係文献の調査も適宜実施した。3.以上の調査に基づく研究・考察は今後の課題とすべき点も多いが、例えば、平安時代書写を含む興山寺蔵大般若経写本六百帖は、仏教史上極めて貴重であることが判明した。国語学上重要な文献は高野山に多く、特にその数点について国語学上の研究を行い成果があった。更には和歌山県相互間の比較、京都地域等との比較の一層の進展も必要であり、今後の課題であるが、その基盤の構築は完了したと言って良い。
著者
土井 光祐
出版者
北海道大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

国語史資料として利用し得る新たな密教関係伝授聞書類を発掘すべく関西を中心とする古社寺、各所蔵機関の実地調査を行い、書誌調書の作成、写真撮影、本文転写を行って、資料の成立背景についての基礎的な分析を行い、国語史資料としての性格を考察した。主な調査機関は、東大寺図書館、仁和寺、神奈川県立金沢文庫、随心院、高山寺である。密教関係伝授聞書類は、密教の師資相承の中で成立するものなので、この観点から成立背景を確認することは不可欠の作業となる。特に、高山寺、仁和寺については、これまで相当に研究が進められてきており、その成果を参照しつつ個々の調査資料をその中に位置付けていくことを並行させつつ考察を進めた。この為には同一の教学環境で成立する関連諸資料との関係を確認することが必要であって、「金剛界念誦次第」「胎蔵界念誦次第」等の「次第」類や、諸尊法の類の加点本も併せて調査した。この過程でいくつかの重要資料を発掘することができたが、中でも仁和寺蔵「金剛界注」鎌倉時代初期写本は金剛界念誦次第の注釈書であって、仁和寺中興の祖である守覚法親王の自筆になるものであり、特に注目される。注釈には片仮名交り文も使用され、非常に詳細な墨点(仮名、ヲコト点(円堂点)、返点、声点、合符)が加えられている。一般に密教事相関係書で字句の訓詁注釈を行うものは極めて稀であるが、本資料によって従来確認の困難であった事相上の術語の鎌倉時代初期における確実な訓法が初めて確認される場合も多く、又、片仮名交り文の中には「ドコ」「デ(格助詞)」等、平安時代には一般に稀な新語の使用も認められる。本資料については、『訓点語と訓点資料』第99輯(平成8年3月発行)に全文の影印、翻字及び解題を掲載した。