著者
今井 則夫 河部 真弓 土井 悠子 中島 弘尚 小川 三由紀 古川 文夫 白井 智之
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第37回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.330, 2010 (Released:2010-08-18)

【目的】現在,あるいは将来,携帯電話などから発生する電波により,人が多世代にわたってばく露されることは明らかである。しかし 電波の多世代のばく露試験はこれまでに報告がされていない。そこで,携帯電話で用いられている2GHz帯電波を妊娠期から授乳期, 離乳後のラットに多世代にわたって全身ばく露し,脳の発達及び機能への影響について検討した。【方法】ばく露箱内の照射用ケージに ラットを入れ,ばく露箱内上部に直交させたダイポールアンテナで,周波数2.14GHz,W-CDMA方式の電波をばく露した。ばく露は 1日20時間を妊娠動物の妊娠7日目から分娩21日目まで,さらに児動物が6週齢に至るまで行い,これを3世代にわたって実施した。照 射レベルとしては全身平均SAR(Specific absorption rate)が0 W/kg(対照群),0.08 W/kg(低ばく露群)及び0.4 W/kg(高ばく露群) の3段階を設けた。児動物は,ばく露終了後に脳への影響を確認するために行動機能(オープンフィールド検査)及び学習・記憶テスト (モーリス水迷路検査)を実施した。その他の検査項目として,体重,摂餌量,妊娠期間,着床痕数,産児数,出産児数,死亡児数,反 応性検査(痛覚反応,平面正向反射,背地走性,空中正向反射,耳介反射,聴覚反射,瞳孔反射,角膜反射),生殖能(性周期,交尾所 要日数,交尾率,受胎率),器官重量及び脳の病理組織学的検査についても実施した。【結果】ばく露期間中,あるいはその後の検査期 間中を通して,体重,摂餌量に電波ばく露の影響はみられず,生殖器能,反応性検査,オープンフィールド検査,モーリス水迷路検査, 器官重量及び脳の病理組織学的検査のいずれに対しても,電波ばく露による影響はみられなかった。【結論】SD系雄ラットに2GHz帯電 波を3世代にわたって,妊娠期から授乳期,離乳後のラットに全身ばく露させた結果,電波ばく露の影響と考えられる変化はみられなかっ たことから,電波ばく露による脳の発達及び機能への影響はないと判断した。(なおこの研究は生体電磁環境研究推進委員会(総務省) の支援によって,また藤原修(名工大),王建青(名工大),渡辺聡一(情報通信機構),和氣加奈子(情報通信機構)との共同研究で実施した。)
著者
宇田 一成 樋口 仁美 土井 悠子 今井 則夫 原 智美 杉山 大揮 米良 幸典
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.43, pp.P-246, 2016

【目的】<br>中期皮膚発がん性試験は投与局所(皮膚)における発がん性評価を目的とし、従来の長期発がん性試験と比べ、使用動物の削減(Reduction)、大幅な試験期間の短縮などのメリットがある。近年では従来医薬品の塗布剤や貼付剤への剤型変更、新製剤または効能追加などによる製品寿命(LCM)の延長戦略により、投与局所(皮膚)の発がん性評価が可能な中期皮膚発がん性試験が用いられている。<br>昨年、中期皮膚発がん性試験で用いるICR系マウスのIGS(International Genetic Standard)生産システムへの移行に伴い、同試験において使用している非IGSマウスとの皮膚腫瘤発生に対する感受性の影響について発表した(第42回日本毒性学会学術年会)。今回は雌雄のIGSマウスを用いて皮膚腫瘤発生に対する雌雄差について検討した。<br>【方法】<br>動物は7週齢の雌雄IGSマウス(Crl:CD1(ICR);日本チャールス・リバー株式会社)を用い、全動物の背部被毛を約2×4 cmの広さで剪毛した後、イニシエーション処置として7,12-Dimethylbenz[<i>a</i>]anthracene(DMBA)を100 µg/100 µLの用量で単回経皮投与した。<br>その1週後より、雌雄各20匹に陽性対照物質である12-<i>O</i>-tetradecanoylphorbol-13-acetate (TPA) を4 µg/200 µLの用量で週2回、19週間経皮投与した(TPA投与群)。また、イニシエーション処置1週間後より雌雄各20匹にアセトンを19週間反復経皮投与する群を設けた(陰性対照群)。<br>投与期間中は発生した皮膚腫瘤を経時的にカウントし、各群における腫瘤発生率及び平均腫瘤発生個数を算出した。<br>【結果・まとめ】<br>TPA投与群では、雌雄共に実験7週時より腫瘤の発生がみられ、発生率は実験18週時に100%に達し、腫瘤の発生時期並びに発生率に違いはみられなかった。また、投与終了時におけるマウス1匹当たりの平均腫瘤発生個数は雄で20.0個、雌で18.8個であった。なお、陰性対照群に腫瘤の発生はみられなかった。<br> 現在、背部皮膚に発生した腫瘤の病理組織学的検査を進めており、その結果とあわせてIGSマウスの皮膚腫瘤発生に対する雌雄差について報告する。