著者
今井 則夫 難波江 恭子 河部 真弓 安藤 好佑 戸田 庸介 玉野 静光 野島 俊雄 白井 智之
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第35回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.123, 2008 (Released:2008-06-25)

【目的】携帯電話の利用者数は年々増加しており、精巣も携帯電話の長時間使用によって電磁波にばく露される対象臓器であり、精巣毒性が懸念される。そこで、携帯電話で用いられている1.95GHz電磁波の精巣毒性の有無について、ラットを用いて検討した。【方法】ばく露箱内の照射用ケージにSD系雄ラットを入れ、ばく露箱内上部に直交させたダイポールアンテナで、周波数1.95GHz、W-CDMA方式の電磁波を全身に照射した。電磁波ばく露は、性成熟過程である5週齢から10週齢に至る5週間、1日5時間行った。照射レベルは全身平均SAR(Specific absorption rate)が0 W/kg(対照群)、0.08 W/kg(低ばく露群)および0.4 W/kg(高ばく露群)の3段階を設定した。なお、実験は各群24匹を2回(1回に各群12匹)に分けて行った。ばく露終了後、剖検を実施して全身の諸器官・組織の肉眼的病理学検査を実施し、雄性生殖器の器官重量の測定を行うとともに、精子検査(精子の運動率、精巣および精巣上体の精子の数、精子の形態異常率)を行った。また、雄性生殖器の組織について病理組織学的に評価するとともに、精巣のステージング(精子形成サイクルの検査)についても評価した。【結果】ばく露期間中に死亡例はみられず、一般状態においても著変は認められなかった。体重、摂餌量、雄性生殖器系器官・組織の重量、精子の運動率、精巣上体の精子数、精子の形態異常率、精巣のステージ分析において、ばく露群と対照群との間に有意な差は認められなかった。また、肉眼的病理学検査および病理組織学的検査においても電磁波ばく露に起因すると思われる変化は認められなかった。【結論】5週齢のSD系雄ラットに1.95GHz電磁波を5週間全身ばく露した結果、電磁波ばく露の影響と考えられる変化がみられなかったことから、電磁波ばく露による精巣毒性はないと判断した。(この研究は社団法人電波産業会(ARIB)の支援によって実施した)
著者
今井 則夫 河部 真弓 土井 悠子 中島 弘尚 小川 三由紀 古川 文夫 白井 智之
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第37回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.330, 2010 (Released:2010-08-18)

【目的】現在,あるいは将来,携帯電話などから発生する電波により,人が多世代にわたってばく露されることは明らかである。しかし 電波の多世代のばく露試験はこれまでに報告がされていない。そこで,携帯電話で用いられている2GHz帯電波を妊娠期から授乳期, 離乳後のラットに多世代にわたって全身ばく露し,脳の発達及び機能への影響について検討した。【方法】ばく露箱内の照射用ケージに ラットを入れ,ばく露箱内上部に直交させたダイポールアンテナで,周波数2.14GHz,W-CDMA方式の電波をばく露した。ばく露は 1日20時間を妊娠動物の妊娠7日目から分娩21日目まで,さらに児動物が6週齢に至るまで行い,これを3世代にわたって実施した。照 射レベルとしては全身平均SAR(Specific absorption rate)が0 W/kg(対照群),0.08 W/kg(低ばく露群)及び0.4 W/kg(高ばく露群) の3段階を設けた。児動物は,ばく露終了後に脳への影響を確認するために行動機能(オープンフィールド検査)及び学習・記憶テスト (モーリス水迷路検査)を実施した。その他の検査項目として,体重,摂餌量,妊娠期間,着床痕数,産児数,出産児数,死亡児数,反 応性検査(痛覚反応,平面正向反射,背地走性,空中正向反射,耳介反射,聴覚反射,瞳孔反射,角膜反射),生殖能(性周期,交尾所 要日数,交尾率,受胎率),器官重量及び脳の病理組織学的検査についても実施した。【結果】ばく露期間中,あるいはその後の検査期 間中を通して,体重,摂餌量に電波ばく露の影響はみられず,生殖器能,反応性検査,オープンフィールド検査,モーリス水迷路検査, 器官重量及び脳の病理組織学的検査のいずれに対しても,電波ばく露による影響はみられなかった。【結論】SD系雄ラットに2GHz帯電 波を3世代にわたって,妊娠期から授乳期,離乳後のラットに全身ばく露させた結果,電波ばく露の影響と考えられる変化はみられなかっ たことから,電波ばく露による脳の発達及び機能への影響はないと判断した。(なおこの研究は生体電磁環境研究推進委員会(総務省) の支援によって,また藤原修(名工大),王建青(名工大),渡辺聡一(情報通信機構),和氣加奈子(情報通信機構)との共同研究で実施した。)