著者
三浦 香苗 渋谷 美枝子 土屋 明子
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要. I, 教育科学編 (ISSN:13427407)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.29-44, 1996-02-29
被引用文献数
3

小学校で学習する"算数"は,中学校では"数学"と教科名がかわり,より論理的で抽象的な内容になる。さらに,中学校で学習する数学は高校の数学へ,大学や専門機関で学ぶ数学という学問へと,より高度で複雑になり発展・深化していく。算数は,数学への入口としての教科であり,論理的思考・抽象的思考を学ぶものであると位置づけられる。学習指導要領によれば,算数科の目標は,「数量や図形についての基礎的な知識と技能を身に付け,日常の事象について見通しをもち筋道を立てて考える能力を育てるとともに,数理的な処理のよさが分かり,進んで生活に生かそうとする態度を育てる」(文部省,1989a p.38)である。中学校数学科の目標の設定についての部分では,「小学校算数の性格を受け継ぎ,心身の発達に応じて,算数の目標を更に十分に達成させるとともに,小学校のときよりも一層論理的,抽象的に思考することができ,数学的な理解を深め,数学的な考察や処理についての能力を一層高めるようにする」と,算数と関連させて数学の目標を位置づけ,数学科の目標は「数量,図形などに関する基礎的な概念や原理・法則の理解を深め,数学的な表現や処理の仕方を習得し,事象を数理的に考察する能力を高めるとともに数学的な見方や考え方のよさを知り,それらを進んで活用する態度を育てる」(文部省,1989c p.9)という算数科ときわめて類似したものである。平成元年に学習指導要領が改訂され,円周率などの複雑な計算については電卓使用を教科書に明記するなど,算数においても大幅な変更が行われた。算数科改善の具体的事項の4項目の1つとして「中学校との指導の一貫性を一層図る」(文部省,1989b p.2)が挙げられ,これまで6年生の比例・反比例で未知数にxyを使用していたものが,4年生で文字を使用して数量関係を式に表すことがとり入れられた。この学習指導要領は,小学校では平成4年度,中学校では5年度より施行されている。算数と数学の学習内容の関連について,小学校教員と中学校教員の認識を調べた結果(三浦 1994a)によれば,中学校数学の授業を理解する前提として,小学校教員は22項目の算数の基礎的知識・技能のほとんど全ての習得を期待していたのに対し,中学校教員はより限られた項目に対しては習得を重視していたものの,習得していなくとも中学校数学の授業に支障がないとする項目もみられ(渋谷・三浦,1994),小学校教員と中学校教員の算数の達成重要度認識がかなり異なったものであることが示された。このような点を踏まえ,中学校数学とのつながりという観点から,最低限必要な算数の基礎的学習内容を特定し,小学校卒業時およびその後の学習内容の達成状況を調べることが,本研究の第1の目的である。先行研究では,小学校卒業時には,算数の基礎的学習内容である四則演算計算は平均約83%,文章題は平均約64%の児童に習得されていることが確認されている(渋谷・三浦,1995a)。今回,中学生にも同様の内容の調査を行うことで,中学入学後もこれらの算数の基礎的な学力が定着しているか,また,その後の学力の向上がどのような問題にみられるかを検討する。第2に,既に行なった調査内容に,図形や関数等の内容を加えた,より広い領域の学習内容の「算数の基礎的学力診断テスト」を作成し,領域間の達成度の関連を検討する。我々は,小学生向け算数学力診断テスト作成のための調査を行ない,四則演算計算・文章題について,小学校卒業時の習得状況および誤答傾向,四則演算計算と文章題の関連について,以下の点を明らかにしている。(1)文章題解決においては主に立式過程で誤りが生じ,計算過程以降の誤りは1割以下と少ない。文章題解決においては,数量関係を把握して式に表すことが,誤りを生じさせ易い困難な過程である。(2)計算力が高いほど文章題の正答率が高く,計算力の高さによって,誤って立式する演算の種類が異なり,文章題解決過程で生じる誤りの種類には質的差異がみられる(渋谷ほか,1995)。今回の調査では,図形に関する知識などを問う図形問題をとり入れるが,計算力や数量関係の把握を必要としない図形問題は,計算力・文章題とどのように関連しているのかを検討する。さらに,数学の学習者である中学生自身が,算数の学習内容をどの程度中学校数学を理解する前提として必要と認識しているのかを調べることが第3の目的である。これについては,数学の学習内容を全て修了した時点の認識として中学卒業時の3年生,算数の学習内容についての記憶が比較的多いと思われる中学1年生に,小学校算数の学習内容である具体的な個々の問題について,"この問題ができることは,中学校の数学の授業についていくために必要かを尋ね,その差異を検討する。第4の目的は,学習内容の達成重要認識と達成度との関連を検討することである。算数で学習した個々の知識が数学の授業において必要だと認識するかどうかは,個々の知識を習得しているかどうかで異なるであろうか。算数のある問題を解ける生徒は,"この知識があったため数学のある部分が容易に理解できた"と考えるのか,あるいは"この種の知識がなくとも支障がなかった"と考えるのだろうか。逆に,ある算数の問題が解けない場合に,数学の学習においてその問題を解けることが必要と思わないのか,あるいは,"この問題が解ければ数学も容易に理解できるのに"と達成重要度認識が高いのだろうか。この点についても,第3の目的で検討する,算数の学習内容のどの部分が中学校数学の理解に必要と認識されているか,と関連させて検討する。
著者
後藤 哲雄 穐澤 崇 渡邊 匡彦 土屋 明子 嶋崎 明香
出版者
日本ダニ学会
雑誌
日本ダニ学会誌 (ISSN:09181067)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.93-103, 2005-11-25
被引用文献数
1 25

ミヤコカブリダニ(ミヤコ)の個体数は, 1990年以降に日本各地で急激に増加し, 関東以西の慣行防除果樹園ではそれまでの優占種であったケナガカブリダニ(ケナガ)と置き換わってきている.一方, 北日本への分布の拡大傾向は小さい.このような種の置換と分布拡大の要因を明らかにする一環として, 本報告ではミヤコの休眠性の有無と2種の耐寒性を報告する.ミヤコは, 短日条件と長日条件の産卵前期間が同じであり, 休眠性はなかった.2種間およびケナガの休眠と非休眠個体間の過冷却点(supercooling point)に有意差はなく, -21.9〜-23.3℃であった.ケナガ・休眠雌は, -5℃で7日以上生存した(>50%)が, ミヤコとケナガ・非休眠雌は5日以内に70〜85%が死亡した.このことからミヤコの北進が遅いのは耐寒性がわずかに弱いことも一因であると考えられた.一方, いずれの種においても生残した雌は20℃長日条件下で2個体を除いて産卵し, 産下卵の大半がふ化した.従って, 低温ストレスは産卵数やふ化率への影響が少なく, ミヤコも冬季の低温条件下で生き残ることができる地域では, 定着が可能であると考えられた.