著者
本岡 拓哉 土屋 衛治郎 松尾 忠直 中島 健太
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2017年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.100184, 2017 (Released:2017-05-03)

1.はじめに フィールドワークは、地理学や文化人類学をはじめとした様々な学問分野の研究手法となっており、教育手法としてのアクティブラーニングにおいても多用されている。地域に入り込み、地域に根差した調査を行い、地域のリアルな記述を目指し、さらには、地域に潜む有益な知識・知見を取り出す活動といえる。文部科学省(2014)高等学校学習指導要領解説には「地理的な見方」として「諸事情を位置や空間的な広がりとのかかわりで地理的事象として見出すこと」とある。その教育手法として重視されるフィールドワークにおいて、教員からフィールドのどこをどのようにみればよいのかという見方の伝達や、学生それぞれの見方を推進するといった教育がなされているともいえる。 これまでのフィールドにおける「地理的な見方」の教育手法として、現場実習的な伝達や学習者自身での気づき・獲得が多かった。一方、記録を用いた教育実践はあまりみられなかった。先人の「地理的な見方」を直接的に記録し、後進への財産として残し活用することは、文化をデジタルデータとして記録し保存、活用しようとするデジタルアーカイブにも通じるだろう。   2.アクションカメラを用いた「地理的な見方」の記録 フィールドワークに関して記録方法とされるものは多々あるが、大別すると、フィールドそのものをありのまま残そうとする「素材」の記録(例えば、画像や動画記録)と、テーマや問いに即しフィールドワークの全体的結果をまとめ、他の調査内容とも合わせて説明が加えられた「解説・論」の記録(例えば巡検報告や論文)に分けられると考える。この中から「地理的な見方」が残せる記録方法は、フィールドのどこに注目するかという「素材」性と、その素材に対する解釈や説明など「解説」性の両面が保持されているものではないだろうか。小林(2012)は「そもそも地域研究とは、フィールド(地域)をどうみるか、フィールドをどう捉えるかが基本となる」と述べた。フィールドのどこを見て、どう解釈するかという記録が「地理的な見方」に近づく可能性が高い。本研究では調査者の視点と発話をアクションカメラを用いた動画記録として取得した。   3.アクションカメラ動画の効果検証 アクションカメラPanasonic HX-A1HとHX-A500とヘッドマウントオプションにより利用者の視線動画撮影を行った。テスト撮影を重ねたところ、アクションカメラの動画には閲覧者にとって学習する価値ある情報が入り、地理的見方学習に活用できる可能性が示された(土屋ほか、2016)。 本研究では、アクションカメラを用いた動画と、ハンディビデオカメラを用いてフィールドワークの様子を引き気味に撮影した動画を比較し、アクションカメラが「地理的な見方」記録につながるか検証した。フィールドワークは大学近隣の植生調査を教員役(主調査者)と学生役(主調査者に指導を受けながら調査)の2名でアクションカメラを装着し実施した(図2)。ハンディカメラは両名の背後から広角で撮影した。 それぞれのカメラの動画を、上記の2名とハンディカメラ撮影者2名が閲覧し、各動画の印象と差について意見を表1のようにまとめてもらった。アクションカメラを用いると、よりフィールドにいる当人の説明活動を追跡できることや、地図などフィールドにおける資料やツールの利用方法など把握できる可能性が明らかになった。一方で、デメリットとして、そもそもどのような活動をしているのかという文脈情報は把握しづらく、引きカメラなどとの掛け合わせの利用の必要性も明らかになった。