著者
都志 翔太 土山 裕之 前田 朋彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100630, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】「脳卒中治療ガイドライン2009」では早期から装具を利用して歩行練習を行うことを推奨グレードAとして位置づけている。理学療法診療ガイドライン第1版(2011)の脳卒中理学療法診療ガイドラインにおいても、早期理学療法、早期歩行練習、装具療法は推奨グレードAとされている。しかし、装具作成時期とADL能力の変化との関連を調べた報告は少ない。今回、当院入院中に下肢装具を作成した症例において装具作成時期とADL能力の変化、入院期間、歩行自立までの期間との関連を調べたので報告する。【方法】対象は2011年4月から2012年3月の期間で当院に入院し下肢装具を作成した45例(男性28例、女性17例、年齢69.6±12.0歳)とする。調査項目として、発症からの入院期間、回復期退院時FIMから回復期入棟時FIMを引いたものをFIM利得、FIM利得を回復期入院日数で除したものをFIM効率とし、カルテより後方視的にデータを抽出し算出した。なお統計方法については、45例のうち発症から2か月以内に装具を処方された群(before2M群)と発症から2か月以上経過して処方された群(after2M群)の2群に分類し、各項目間で比較検討を行った。また下肢装具作成し歩行自立に至った19例(男性11例、女性8例、年齢68.5±8.5歳)も同様に2群に分類し、歩行自立までの期間を比較検討した。統計手法として、対応のないt検定を行い有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言の精神に則り実施し、臨床研究に関する倫理指針を遵守した。倫理面の配慮として、個人を特定できる情報は削除し、情報の分析に使用されるコンピューターも含めデータの取り扱いには十分に注意を払った。【結果】疾患の内訳は脳梗塞21例、脳出血18例、くも膜下出血4例、その他2例、装具の内訳はKAFO27例、両側支柱付AFO10例、Gait Solution3例、APS-AFO2例、プラスチックAFO2例、CEPA1例であった。before2M群は20例で、発症から装具作成まで39.8±14.1日、発症からの入院期間は172.2±39.8日、FIM利得は33.7±20.1点、FIM効率は0.23±0.15、after2M群は25例で、発症から装具作成まで93.7±28.1日、発症からの入院期間は219.6±81.0日、FIM利得は23.2±13.5点、FIM効率は0.14±0.08であった。この2群での統計解析の結果、before2M群で発症からの入院期間が有意に短く、FIM利得、FIM効率において有意に高かった。また装具処方され歩行自立に至ったbefore2M群は11例で歩行自立までの期間は93.2±32.6日、after2M群は8例であり歩行自立までの期間は139.4±51.1日であった。2群間での歩行自立までの期間においてbefore2M群で有意に短かった。【考察】今回の調査により、装具作成はより早期に行ったほうが、入院期間の短縮や歩行自立までの期間短縮、ADL能力の改善につながる有効な結果が得られた。損傷を受けた脳の再組織化が期待できる時期は発症から1か月以内であり、発症後からの時間依存性であることが報告されている(熊崎,2007)。また運動には認知機能低下を予防・改善する効果があり(堀田,2009)、今回の結果は装具を使用した早期歩行練習の効果を反映したものと思われる。早期装具療法が重要といわれているが、当院において2か月以降に装具を作成する症例も多いのが現状である。発症から2か月という期間は急性期から回復期への移行期間であり、身体機能面でも麻痺の回復がみられてくる時期である。今回調査はしていないが、装具作成が遅れる原因として、セラピストの経験不足、症例の経済的理由、急性期から回復期への連携不足、病院間で装具業者が異なる、急性期での意識障害の残存や合併症による離床の遅れなどが考えられる。今後はより早期に装具作成が行えるように装具作成に向けた作成基準を統一することが必要であり、装具完成までの期間を短縮していくことが課題である。【理学療法学研究としての意義】下肢装具が必要な症例に対しては、早期から装具作成を実施したほうが入院期間の短縮やADL向上が図れることが示唆され、より早期に装具を作成できるシステム作りが必要と思われる。
著者
坂井 登志高 永井 将太 藤川 諒也 土山 裕之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>運動学習では運動イメージが学習効果に有効と報告されている。一方,運動イメージの鮮明性によって学習効果に個人差があると報告されている。また,運動イメージを補助するために運動観察が利用されているが,観察条件の差異によって運動イメージを想起する難易度が異なり,学習効果に影響をもたらす可能性が考えられる。本研究の目的では運動イメージ能力を評価し,その能力が学習効果に及ぼす影響を検討することと,運動観察の条件の差異が学習効果に及ぼす影響を検証することである。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>成人健常者45名(年齢21.0±0.7歳)を対象とした。運動イメージ能力としてメンタルローテーション(MR)課題を評価した。MR課題では左右の手背,手掌が各々時計回りに0°,90°,180°,270°回転してある写真を16枚使用した。ランダムに提示後,正確に素早く左右どちらかを回答してもらい,各対象者の平均反応時間を算出した。</p><p></p><p>学習課題として不安定板(DIJOCボード,酒井医療)上での立位課題とした。対象者に不安定板の両端が床につかないように提示した。学習効果判定のため,不安定板に内蔵された加速度計により安定指数を算出した。課題試行前(試行前),課題試行10分後(10分後),課題試行1日後(1日後)に評価した。各期間の学習変化率として10分後・1日後を試行前の値で除した値を算出した(10分後変化率・1日後変化率)。</p><p></p><p>課題は身体練習と運動イメージを行う群(運動イメージ群),身体練習と腹側の運動観察を行う群(腹側観察群),身体練習と背側の運動観察を行う群(背側観察群)の3群に分け,各群15名ずつとした。運動イメージは身体練習後に筋感覚的イメージを提示した。運動観察は身体練習時の腹側・背側から撮影し,身体練習後に運動観察を行った。身体練習を20秒間,運動イメージおよび運動観察は2分間行い,各5回施行した。</p><p></p><p>統計学的解析はMR課題平均反応時間と各期間の学習変化率の関係をみるため,Spearmanの順位相関分析を用いた。各群の学習効果を検討するため,二元配置分散分析・多重比較(Tukey法)を用いた。全ての検定における有意水準は5%未満とした。解析はSPSS(IBM社)を使用した。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>運動イメージ能力の指標であるMR課題平均反応時間と各期間の学習変化率の関係では,平均反応時間と1日後変化率にて正の相関を認め(r=0.38,p<0.05),運動イメージ能力が高いほど,有意に学習効果は高くなった。運動観察条件の差異が学習効果に及ぼす影響の検討では,3群ともに施行前と10分後・1日後のみに有意に立位バランスが改善したが(p<0.01),各群間の交互作用はなく,運動観察の差異による学習効果の影響はなかった。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>成人健常者では運動イメージ能力が高いほど学習効果が高くなると推察できる。一方,運動観察条件の差異では学習効果に影響を与えることはなかった。今後は高齢者や脳卒中患者などの運動イメージ能力が低下している患者で検証していく。</p>