著者
土'谷 敏治
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2019, 2019

茨城県ひたちなか市は,これまでにも積極的な公共交通政策を実施してきたことで知られるが,さらに,第三セクター鉄道のひたちなか海浜鉄道湊線の延伸を計画している.本稿では,ひたちなか市域全体を対象として,市民が日常の移動行動でどのように公共交通機関を利用しているのか,湊線延伸計画,ならびに,これまでのひたちなか市の公共交通政策をどのように評価しているのか,今後の交通政策に何を期待しているのかについて,アンケート調査を実施した.その結果,市民の移動行動は自家用車中心であるが,移動目的や居住地域などに対応することによって,公共交通機関の利用を促進することが可能とであると考えられる.湊線延伸計画,これまでのひたちなか市の公共交通政策については,地域差はみられるが,市民の賛同がえられていることが明らかになった.また,自家用車を利用できなくなることに不安を抱いている市民が多く,交通機関の連携を深めながら,公共交通を整備拡充していく必要性が認められる.現在は,市民への啓蒙活動と情報提供を進めることで,公共交通に対する市民意識の改革を図る好機でもあると判断される.
著者
土'谷 敏治 安藤 圭佑 石井 智也 花井 優太 八剱 直樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.6, 2011

_I_.はじめに<BR> 2002年の乗合バス事業に対する規制緩和以前から,多くの自治体がコミュニティバスの運行を始めた.鈴木(2007)は,コミュニティバスとは,「既存の交通機関のサービスが技術的または経営的理由で行き届かない地域の住民の交通手段を確保するため,既存のバスよりも小型の車両をもって,市町村が何らかの形で関わり,何らかの財政支援を背景として運行される乗合バス」としている.また,1995年に運行を開始した武蔵野市のムーバスの模造品が続出したため,「循環ルート」で「ワンコイン運賃」が常識との認識も生まれていると指摘している.<BR> 茨城県ひたちなか市は,市内の公共交通機関の維持に積極的に取り組んでいる地方自治体の1つである.茨城交通の湊線鉄道事業からの撤退表明を受けて,2008年にひたちなか海浜鉄道として第三セクター化し,2009年と2010年には乗合タクシーの実証運行も行った.さらに,2006年10月から「スマイルあおぞらバス」というコミュニティバスを運行している.2系統で始まったこのコミュニティバスは,運行経路の変更や増設を経て,2011年1月現在5系統となっている.ただし,上記の鈴木(2007)の指摘のように,運賃100円の循環ルートを運行し,もっも長い系統では,循環ルートを1周するのに1時間50分程度を要する.運行経路などに対する市民の評価も,賛否両論が聞かれる.<BR> 2010年10月,このひたちなか市コミュニティバスについての調査の機会がえられた.本報告では,上記の点を踏まえ,ひたちなか市のコミュニティバスが,市民にどのように利用され・評価されているのかを明らかにするため,利用者数や利用のパターン,利用者の属性や利用の特色,利用者の評価について調査するとともに,今後の課題について検討することを目的とする.<BR> _II_.調査方法<BR> 利用者数については,ひたちなか市も停留所ごとの乗降数を調査している.ただし,個々の乗客の乗車・降車停留所までは明らかではない.今回は利用パターンを明らかにすることを目指し,乗降停留所を特定して,旅客流動調査を行った.これによって,OD表レベルでの利用者数の把握が可能となる.利用者の属性や利用の特色,評価については,車内で調査票を配布し,利用者自身が記入する方式を基本としたアンケート調査を実施した.ただし,記入が困難な場合については,調査票をもとに調査員が聞き取りを行った場合もある.主な調査項目は,居住地・性別・年齢・職業の利用者の属性,利用目的,利用頻度,コミュニティバスに対する評価などである.<BR> 調査は,5系統のコミュニティバス全便に調査員が乗車し,旅客流動調査と配布・聞き取り調査を行った.旅客流動調査は基本的には悉皆調査である.配布・聞き取り調査については,できるだけ多くの利用者に対する調査を心がけたが,車内空間が狭く,1名の調査員では混雑時や短区間の利用者については調査に限界があるため,悉皆調査とはなっていない.調査日は,平日と土・日曜日の違いを考慮して,2010年10月15日(金),16日(土)の2日間実施した.<BR> _III_.調査結果の概要<BR> 旅客流動調査の結果,10月15日(金)438人,10月16日(土)478人,2日間の合計で延べ914人の利用者があった.もちろん系統によって利用者の多寡があり,都心部系統の利用者が多い.また,都心部系統や那珂湊系統では金曜日より土曜日の利用者が多いが,他の系統は逆になる.旅客流動は,JR勝田駅の乗降が卓越し,各停留所・勝田駅間の利用が主要なパターンであるが,勝田駅以外では,ショッピングセンターや公共施設,病院,一部の住宅団地での利用者が多い.しかし,その他の多くの停留所では,ほとんど乗降がみられなかった.<BR> 利用者に対するアンケート調査では,2日間で401人から回答がえらた.各系統とも女性の利用者比率が高く,60歳代以上の高齢者の利用が卓越する.利用目的も買い物目的が最も多く,高齢者の利用を反映して通院目的の利用も多い,しかし,都心部の路線を中心に通勤目的の利用がみられ,土曜日には,10歳代を含む若年層の利用や,那珂湊コースのように観光目的の利用も増加する.<BR> このような点から,極端に長い循環ルートの再編とともに,通勤利用・土休日の買い物利用・観光利用など,いわゆるコミュニティバスの枠にとらわれない路線の設定や対象利用者の拡大を検討していく必要がある.
著者
土'谷 敏治
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.152, 2003

1.はじめに 現在,日本の公共交通は大きな転換期に立っているといえる.自動車交通への依存度がさらに高まる中で,規制緩和と国による助成の削減が実施され,とりわけ大都市圏以外の地域では,各事業者の経営判断と地方自治体による政策的決断の必要性が増している. このような事態は,自らのインフラストラクチャーを維持・管理しなければならない地方鉄道事業者にとって,より深刻である.地方鉄道事業者の経営環境が,極めて深刻な状況におかれていることは周知の事実であるが,旧国鉄の地方交通線問題が一応の終結をみて以来,鉄道の存廃問題はしばらく沈静化していた.しかし,上記のような動きの中で再びその存廃問題が論議され,実際に廃止される鉄道路線がみられるようになった.このことは,従来の独立採算制の枠組みの中では,既に経営の限界に達している事業者が現れていることを示している.他方,いずれの鉄道路線にも,日常生活を営む上でその路線を必要とする利用者が存在する.今後は経営補助の視点ではなく,都市計画や地域の交通政策の中で,鉄道をはじめとする公共交通機関を位置づけていかなくてはならない段階にきているといえよう. ところで,鉄道路線の存廃を論議するにしても,また助成制度や交通政策を検討するにしても,まずその鉄道路線のおかれている現状や利用状況の把握が不可欠である.そのうち経営側の視点に立った分析は,当該事業者の経営上の資料から可能であるが,利用者側の分析は利用者や沿線居住者に対する新たな調査が必要であり,一部の鉄道路線を除いて十分な資料が入手困難な状況にある.今回,千葉県銚子市の銚子電鉄について,利用者に対する調査の機会を得た.本研究では経営側の資料とあわせて,この調査結果をもとに銚子電鉄利用者の特徴やその利用状況についての分析を行い,銚子電鉄が抱える課題や展望について検討を加える.2.銚子電鉄の旅客輸送パターン 銚子電鉄は,営業キロ6.4km,地方鉄道の中でもとりわけ小規模な鉄道である.その路線は,銚子市の中心部に位置しJR線との接続駅でもある銚子を起点に,市域の南東端に位置する外川を結んでいる. したがって,旅客輸送パターンは,銚子とその他の各駅間の輸送が中心であり,定期外の輸送ではとくに銚子・犬吠間の観光客の輸送が顕著である.このような輸送パターン以外では,沿線に立地する高等学校や小学校への通学輸送や,旧市街への買い物・用務客の輸送が注目される.時間帯別にみると,もちろん通勤・通学時間帯に輸送量が集中するが,とりわけ午前の通学時間帯における,上記の学校最寄り駅付近での集中が顕著である. しかし,このような旅客輸送の営業収入は営業経費を下回って欠損を生じている.他方,旅客輸送以外のいわゆる副業による収入は旅客収入を大きく上回り,それによって旅客収入の欠損を埋め合わせている情況にある.3.利用者特性 銚子電鉄利用者の特性を明らかにするため,乗客の性別・年齢などの属性や,利用目的・利用頻度・乗降駅・他の交通機関との乗り継ぎなどの利用状況についてのアンケート調査を実施した.その結果,調査時1日の銚子電鉄利用者総数の1/4強と考えられる回答を得た. 回答者の約3/4は銚子市在住者であったが,その半数以上が通勤・通学を利用目的として挙げている.その数は,利用頻度が週4日以上の回答者数とほぼ一致し,両者の対応関係は明らかである.しかし,定期乗車券利用者数はこれよりも少なく,通勤・通学利用者の定期乗車券購入率低下を裏付けている.通勤,通学に次いで,買い物や遊びに出かける際の利用が多いが,これら利用目的でも週単位の利用者が多く,全体として銚子電鉄利用者の利用頻度は高いといえる.このことは利用者の銚子電鉄に対する評価にも表れ,好意的な評価や存続を望む意見が多い.また,パークアンドライドに代表される自家用車や自転車との連携は不十分であるが,銚子駅におけるJR線との乗り継ぎ需要はかなり存在すると考えられ,両者の連携強化が求められる. 銚子市以外の在住者では,そのほとんどが観光目的の利用で,11月の調査時期から考えても,銚子電鉄に対する観光需要は大きいと判断される.また,観光客の多くに,銚子電鉄自体を観光対象の1つとして評価する傾向が見らる.これらの観光客は,主としてJR線を経由して訪れており,観光面でもJR線との連携が望まれる.
著者
土'谷 敏治
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.102, 2005

1.はじめに 公共交通機関の経営状況が悪化する中で,規制緩和政策にともなう交通事業者の退出の自由が認められたことを受けて,多数のバス路線はもとより,鉄道・軌道についても存廃問題が議論され,実際に廃止される路線がみられるようになった.その中で,富山県の加越能鉄道は,通称「万葉線」の軌道事業からの撤退を表明した.しかし,地元自治体の存続に向けての意志表示や市民の存続運動の結果廃止を免れ,第三セクター万葉線株式会社として再出発することになった. ところで,万葉線の第三セクター化の過程で,採算性の検討や今後の需要予測は行われてきたが,利用者側の実態調査,すなわち,利用者の属性,利用頻度,利用目的,利用者の特性などの調査は,ほとんど実施されていないのが現状である.また,詳細な旅客流動調査も行われておらず,運賃収入にもとづく乗客数の予測値が,唯一の利用実態を示すデータといって過言ではない.もちろん,経営の危機に瀕している事業者としては,利用状況の把握もままならない事態は理解できるが,旅客流動状況や利用者特性の把握は,当該事業者の現状を理解し,今後を展望するためには必要不可欠な情報であるといえる. 本報告では,既存の路面電車を第三セクター化して存続することに成功した万葉線株式会社を取り上げ,旅客流動調査,アンケート調査を実施して,その旅客輸送パターン,利用者の特性について分析を行った.2.調査の方法 調査は,できるだけ多くの調査日を設定して実施することが好ましいが,調査員の確保,調査対象利用者や事業者側の負担などから,限られた日に実施せざるをえない.今回は,平日と休日の各1日ずつの調査とし,前者は2004年11月2日(火),後者は11月3日(水)の文化の日に実施した. 両日の調査にあたっては,始発から終発までのすべての電車の乗客に対して,居住地,性別,年齢などの利用者の属性,利用目的,利用頻度,乗り継ぎ利用の有無などの利用者の特性,万葉線についての評価などのアンケート調査を実施するとともに,現金払い,通勤・通学定期,回数券などの運賃支払い区分別旅客流動調査を行った.その結果,870人からアンケート調査の回答がえられた.また,のべ乗車人員は,11月2日が2,426人,11月3日が1,518人であった.3.万葉線の旅客輸送パターン 万葉線は,高岡市と新湊市にまたがる12.8kmの路線を有しているが,法的には高岡駅前・六渡寺間の軌道線と,六渡寺・越ノ潟間の鉄道線からなっている.しかし,両者は路面電車タイプの車両で一体として運行されており,実質的な区別はない. 旅客流動調査の結果から,万葉線の旅客輸送パターンは,大きく分けて,高岡駅前を最大の発着地とする高岡市内の近距離輸送,新湊市役所前を中心とする新湊市内の近距離輸送,高岡・新湊両都市間の輸送からなっている.これらの旅客輸送パターンには,高岡市内,新湊市内に立地する高等学校への通学利用,高岡市内のショッピングセンターへの買い物利用による輸送が含まれる.通勤・通学客が少なくなる休日では,高岡駅前を発着地とする輸送の割合が高まる傾向がみられる. 運賃支払い区分では,平日の通勤・通学定期利用者は約31%,休日は約19%で,定期旅客の割合が低く,都市内部の公共交通機関の性格を有しているといえる.また,沿線に立地する幼稚園の遠足による団体利用があるなど,地域に密着した交通機関であることが窺われる.4.利用者の特性 利用者に対するアンケート調査の結果から,半数近くが高岡市在住者,約30%が新湊市在住者である.年齢別にみると,10歳代と60歳以上がそれぞれ約30%で,高校生の通学と高齢者の利用が中心であるという構造は,万葉線にもあてはまる.しかし,20_から_50歳代の利用者も40%近くを占める.このことは,通勤利用者率の高さにも反映されており,最大の利用目的である通学利用についで通勤利用が多く,両者の差は小さい.買い物利用,余暇活動による利用,通院がこれらにつづく利用目的であるが,通学や通勤利用の半分程度である. 万葉線についての評価では,運転本数の評価が高く,ついで運賃や乗務員の応対など,第三セクター化後の営業努力が比較的高い評価をえている.他方,設備面や終電時刻については,改善の希望が多く見うけられた.