著者
大瀧 仁志 小堤 和彦 坂上 成美
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

2種の溶媒が混合している媒体中に電解質を溶解させると、生成したそれぞれの陽イオンや陰イオンは2種の溶媒により溶媒和される。これらのイオンに溶媒和している溶媒の組成は、一般にイオンによって異なるし、またバルクの溶媒組成とも異なる。溶媒和圏の溶媒組成がバルクの組成と異なる時、イオンはある一方の溶媒と好んで結合しようとする性質があることを示し、このとき、イオンは一方の溶媒により選択的に溶媒和されているという。われわれは溶液X線回折法により第1溶媒和圏の溶媒組成を直接決定し、選択溶媒和の程度を定量的に表現する量として、選択溶媒和指数K_<PSO>=[X^^-_A(1-X^^-_A)]/[X_A/(1-X_A)]を新たに導入した。A、Bは混合溶媒において、イオンの溶媒和圏における溶媒AおよびBの濃度(モル分率X^^-_AおよびX_B=1-X^^-_A)とバルク層における溶媒AおよびBの濃度(モル分率X_AおよびX_B=1-X_A)である。-RT1nK_<PSQ>は当該イオンの溶媒AおよびBの溶媒和ギブズエネルギーの差ΔΔG^O_<solv>と密接に関連していることが示された。また溶媒和圏における溶媒分子間の相互作用、とくに立体的障害に起因する反発力は選択溶媒和に大きな影響を与えることが示された。ここで得られた-RT1nK_<PSQ>の値と熱力学的考察から、溶媒和圏における分子間立体障害のエネルギーを推定することが可能であると考えられる。溶媒分子Aがイオンばかりでなくもう一方の溶媒分子Bとも強く相互作用する場合には、遊離の溶媒分子Aの濃度が低下するため、溶媒Aの選択溶媒和性が著しく低下する現象が観察された。これらのことから、選択溶媒和の主な原因は1)主として溶媒分子のドナー性(対陽イオン)やアクセプタ-性(対陰イオン)に基づくイオン-溶煤相互作用(引力的相互作用)2)双極子間、四極子間相互作用などの溶媒相における溶媒分子間相互作用(引力的相互作用)3)主として立体障害に基づく溶媒和圏における分子間相互作用(反発的相互作用)であることが示された。