著者
坂口 さやか
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は、神聖ローマ皇帝ルドルフ二世の帝国統治理念が、政治的権力としていかなる実効性を持ったのか、帝国理念の表象である芸術作品の解釈および受容の研究により解明することにある。平成20年度は、特に以下の目的に沿って研究を進めた。1.ルドルフの肖像A)即位時のメダイヨンや硬貨、B)トルコ戦争に関する銅版画や彫刻、C)アルチンボルドの《ウェルトゥムヌス》に分類して考察を行った。その結果、A)では新皇帝ルドルフを印象付けるため、B)では皇帝の勝利のイメージにより、帝国やキリスト教世界の平和が保たれることを示すため、C)では自然魔術により地上の黄金時代の魔術的皇帝像を構築するため、ルドルフの肖像が創造され、それらは同時代の文献において皇帝のほぼ思惑通りに受容されていたことが解明された。その成果をもとに、表象文化論学会第3回大会およびオタワ大学でのワークショップでの口頭発表、そして『表象』3号への論文投稿を行った。2.神話画従来の研究でルドルフの神話イメージで最重要とされたウェヌスやミネルウァなどの神話画について考察を深めることとした。まず、各々の作品について図像解釈を行った。そして、そこから導出されたキーワード「愛・叡智・寓意」の相互の関連性および政治権力との結びつきを、ブルーノの著作に基づき論じた。さらに、フィチーノを参照しつつブルーノとの比較を行った。その結果、ブルーノの思想が政治権力を強く志向していると判明した。ブルーノはルドルフを魔術的皇帝と崇めており、またプラハ宮廷の人々とも親交があったため、彼の神話イメージに関する政治思想が、ルドルフや宮廷人たちの思想と同様の方向性を有していた可能性を結論として提示した。その成果をもとに、東京大学で開かれたシンポジウム「イメージの作法」での口頭発表および『表象文化論研究』8号への論文投稿を行った。