- 著者
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坂口 美優
赤坂 郁美
- 出版者
- The Association of Japanese Geographers
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- pp.101, 2014 (Released:2014-10-01)
ヒートアイランド現象を緩和する効果があるとして、都市内緑地の熱環境改善効果に期待が高まっている。都市内の緑地では、樹木による日光遮蔽効果や葉面からの蒸散作用で周辺市街地よりも気温が数℃低くなる。これはクールアイランド現象と呼ばれ、成田ほか(2004)によって新宿御苑とその周辺市街地では夏季日中には約2℃、夜間は日によって変化があるものの1~3℃の差が現れることが明らかになった。また、静穏な夜間に芝生面からの放射冷却などで生み出された冷気が周辺市街地へと流れ出る「にじみ出し現象」の存在が丸田(1972)によって指摘されている。緑地内で低温域を作り出すのは樹林地及び水面である(尹ほか,1998)。そのため、水面の面積が大きいほど周囲の温度を下げる効果が大きいと考えられる。そこで、本研究では都市部の公園の中でも公園全体の面積に対し池の割合が大きい石神井公園とその周辺市街地で気温の観測を行い、クールアイランド現象やにじみ出しによる冷気の到達範囲を明らかにする。東京都練馬区の都立石神井公園(面積約22.5ha)において観測を行う。園内には三宝寺池(面積約3.2ha)と石神井池(面積約4ha)の2つの池がある。 公園内13か所(図1のA~M)と公園外市街地2か所(図内三角形の印)に温度・湿度データロガー(T&D社TR72-U)を設置し、2014年8月から1か月間の定点観測を行う。公園をほぼ南北方向に横切りその延長上の市街地を含むルート(図1に示すルート1,2)と、公園を東西に分けている道路(井草通り:図中ルート3)上と、公園の西端・東端からそれぞれ150m・200mの道路(図中ルート4,5)において気温の移動観測を夜間に行い、冷気のにじみ出し効果の範囲を調査する。また、日中にも公園内の冷気が周辺市街地に影響を及ぼしているかどうかも調査するため、日中にも気温の移動観測を行う。観測の際の移動は夜間は自動車、日中は徒歩で行う。夜間に公園と市街地の境界地点3か所(図1内星印)に熱線式風速計を設置し、風速の観測を行う。風向については夜間の気温移動観測時に観測を行う。予備観測として、2014年6月2日に図1のルート1において日中に徒歩での移動観測を行った。17時の地点3から16の各地点の気温を図2上に示す。気温の最高値は南側の市街地内地点13の31.3℃で、最低値は公園内地点9の29.1℃であった。公園内は市街地に比べ気温が低く、クールアイランドを形成していることがわかる。観測を行った16時30分から17時30分には南風と南東の風が卓越しており、公園北側の市街地内の気温が南側より低かった原因の1つと考えられる。また、地点4~6の西側は住宅地であるが、東側は松の風公園という緑地であるため、その冷却効果の影響も受けている可能性がある。また、夜間の自動車での移動観測を2014年7月6日に行った。19時40分のルート1・ルート3の各地点の気温を図2中・下に示す。ルート1で公園外北側の地点7と8で最も低温となっている以外は6月2日の徒歩での観測結果と類似した特徴を示しており、公園北側には団地内の緑地の影響とみられる低温帯が形成されている。ルート3においては公園に面している地点での低温帯の形成が確認できる。8月における本調査の結果は、発表にて述べる。