著者
三上 岳彦 永田 玲奈 大和 広明 森島 済 高橋 日出男 赤坂 郁美
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2017年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.100193, 2017 (Released:2017-10-26)

筆者らの研究グループでは、東京首都圏におけるヒートアイランドと短時間強雨発生の関連を解明する目的で、気温・ 湿度(143地点)、気圧(49地点)の高密度観測(広域METROS)を行っている。2015年7月24日の14:00-15:00に、東京南部の世田谷区を中心に時間雨量が約50mmの短時間強雨が発生した。そこで、この日の短時間強雨について、事例解析を行った。この事例解析から、世田谷付近で増加傾向を示す短時間の局地的豪雨の要因として、降雨開始3時間前頃に高温域が形成されると、その約1時間後に熱的低気圧が発生し、さらに2時間後には、南からの海風進入による湿潤空気の流入で水蒸気量が急激に増加して豪雨となると考えられる。豪雨開始と同時に急激な気圧の上昇が起こるが、これは発達した積乱雲内部での強い下降流によるものと推察される。
著者
高橋 洋 浅田 寛太 赤坂 郁美 松本 淳
出版者
一般社団法人 日本風工学会
雑誌
風工学シンポジウム論文集
巻号頁・発行日
vol.22, pp.115-120, 2012

本研究では、台風が日本付近に存在する場合に、台風の位置による強風の発生しやすい地域分布について、発生頻度を調べることにより、明らかにした。特に、防災の観点から、比較的警戒度が低いと考えられる北東進する台風の西側(台風の通過後の地域)や、台風から数百キロメートル以上離れた地域に注目し、強風の発生を調査した。その結果、強風は、いわゆる危険半円以外の地域でも多く観測されていることが分かった。また、その位置は、地形との関係が明瞭な場合が多く、比較的沿岸域に多い。一方で、G12の場合の九州地方全土での強風や、K6における関東の内陸部での強風など、気象学的にあまり知られていない結果も得られた。これらについては、今後さらに結果を精査し、強風による災害を未然に防ぐための警戒情報に活用できる可能性がある。
著者
坂口 美優 赤坂 郁美
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.101, 2014 (Released:2014-10-01)

ヒートアイランド現象を緩和する効果があるとして、都市内緑地の熱環境改善効果に期待が高まっている。都市内の緑地では、樹木による日光遮蔽効果や葉面からの蒸散作用で周辺市街地よりも気温が数℃低くなる。これはクールアイランド現象と呼ばれ、成田ほか(2004)によって新宿御苑とその周辺市街地では夏季日中には約2℃、夜間は日によって変化があるものの1~3℃の差が現れることが明らかになった。また、静穏な夜間に芝生面からの放射冷却などで生み出された冷気が周辺市街地へと流れ出る「にじみ出し現象」の存在が丸田(1972)によって指摘されている。緑地内で低温域を作り出すのは樹林地及び水面である(尹ほか,1998)。そのため、水面の面積が大きいほど周囲の温度を下げる効果が大きいと考えられる。そこで、本研究では都市部の公園の中でも公園全体の面積に対し池の割合が大きい石神井公園とその周辺市街地で気温の観測を行い、クールアイランド現象やにじみ出しによる冷気の到達範囲を明らかにする。東京都練馬区の都立石神井公園(面積約22.5ha)において観測を行う。園内には三宝寺池(面積約3.2ha)と石神井池(面積約4ha)の2つの池がある。 公園内13か所(図1のA~M)と公園外市街地2か所(図内三角形の印)に温度・湿度データロガー(T&D社TR72-U)を設置し、2014年8月から1か月間の定点観測を行う。公園をほぼ南北方向に横切りその延長上の市街地を含むルート(図1に示すルート1,2)と、公園を東西に分けている道路(井草通り:図中ルート3)上と、公園の西端・東端からそれぞれ150m・200mの道路(図中ルート4,5)において気温の移動観測を夜間に行い、冷気のにじみ出し効果の範囲を調査する。また、日中にも公園内の冷気が周辺市街地に影響を及ぼしているかどうかも調査するため、日中にも気温の移動観測を行う。観測の際の移動は夜間は自動車、日中は徒歩で行う。夜間に公園と市街地の境界地点3か所(図1内星印)に熱線式風速計を設置し、風速の観測を行う。風向については夜間の気温移動観測時に観測を行う。予備観測として、2014年6月2日に図1のルート1において日中に徒歩での移動観測を行った。17時の地点3から16の各地点の気温を図2上に示す。気温の最高値は南側の市街地内地点13の31.3℃で、最低値は公園内地点9の29.1℃であった。公園内は市街地に比べ気温が低く、クールアイランドを形成していることがわかる。観測を行った16時30分から17時30分には南風と南東の風が卓越しており、公園北側の市街地内の気温が南側より低かった原因の1つと考えられる。また、地点4~6の西側は住宅地であるが、東側は松の風公園という緑地であるため、その冷却効果の影響も受けている可能性がある。また、夜間の自動車での移動観測を2014年7月6日に行った。19時40分のルート1・ルート3の各地点の気温を図2中・下に示す。ルート1で公園外北側の地点7と8で最も低温となっている以外は6月2日の徒歩での観測結果と類似した特徴を示しており、公園北側には団地内の緑地の影響とみられる低温帯が形成されている。ルート3においては公園に面している地点での低温帯の形成が確認できる。8月における本調査の結果は、発表にて述べる。
著者
松本 淳 林 泰一 山根 悠介 小林 茂 寺尾 徹 山本 晴彦 釜堀 弘隆 久保田 尚之 赤坂 郁美 福島 あずさ 村田 文絵 藤波 初木 加藤 内藏進
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2014-05-30

国内で実施中のデータレスキュー研究活動をまとめ、国際的活動と連携するACRE-Japanを、本研究を中核として組織し、アイルランドと北京で開催された国際会議報告を国際共著論文にまとめた。またMAHASRIプロジェクトの後継となるアジアモンスーンに関する国際共同研究の立案を開始し、国内・国際ワークショップを主宰した。南アジアについては、旧英領インドの現ミャンマー・バングラデシュ領内の日降水量データの原本照合・品質チェックが完了し、過去120年スケールの長期変化傾向についての解析を進めた。インド北東部チェラプンジの104年間の日降水量データから、インド北東部のモンスーン活発期の発生機構を明らかにした。バングラデシュの1955年~1980年後半、インドアッサム州の1930年~1950年代後半までのシビアローカルストームデータベースを構築し、発生日の長期変動について解析した。スリランカの1860年代以降の日降水量データ収集した。東南アジアについては、フィリピンの過去115年間のモンスーン開始期および20世紀後半以降における降水の季節変化パターンの長期変動を解明した。日本とフィリピンの過去120年間の台風活動を調べ、近年の大きな被害を出した台風と類似の台風が過去にも上陸していたことを示した。中国については、日降水量データ(Zi-ka-wei)1890年代~1930年代のデジタル化を完了した。樺太、朝鮮、北支那における気象データの統合と検証を行い、東北部黒龍江省における温暖化解析と水稲冷害のリスク解析、東北部・内蒙古自治区の乾燥地帯における雨季の変動解析を行った。帝国日本の気象観測ネットワークに関する2冊の書籍を刊行した。東アジアの多彩な季節サイクルの長期変動解明を行なった。日本については、東海・四国地方の明治・大正期の日降水量データをデジタル化し、大雨発生の長期変化等を解析した。
著者
大和 広明 森島 済 赤坂 郁美 三上 岳彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.74-84, 2017 (Released:2017-07-27)
参考文献数
12
被引用文献数
1

関東地方で実施した高密度観測から得られた夏季の気温と気圧データに対して主成分分析を行い,これらの時空間変動にみられる特徴を明らかにした.気温場と気圧場それぞれの上位3主成分には,海陸風循環,ヒートアイランド現象,北東気流に関係した空間分布が認められ,相互の主成分間に有意な相関関係が存在する.これらの気温と気圧の関係は,いずれも相対的に気温が高い(低い)地域で気圧が低い(高い)傾向を示す.晴天日の気温と気圧の分布には明瞭な日変化が認められ,日中には海風の発達に伴い,関東平野の内陸部で相対的に高温低圧となり,日没後から夜間にかけては,ヒートアイランド現象が顕在化して東京都心から北側郊外にかけての都市部で相対的な高温低圧傾向が認められた.これらの観測事実に基づいた解析から,晴天日の気温と気圧の主要な日変化パターンに,内陸部の高温低圧に伴う海風循環とヒートアイランド現象に伴う高温低圧が認められた.
著者
赤坂 郁美 財城 真寿美 久保田 尚之 松本 淳
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2019, 2019

<b>1. </b><b>はじめに</b><br> <br>マニラでは、1865年からスペインのイエズス会士により気象観測が開始され(Udias, 2003)、戦時中を除き現在まで150年近くの気象観測データを得ることができる。20世紀前半以前の気象観測データを時間的・空間的に充分に得ることができない西部北太平洋モンスーン地域において、降水量とモンスーンの関係とその長期変化を明らかにする上で、貴重な観測データであるといえる。そのため、著者らはこれまで19世紀後半~20世紀前半の気象観測資料を収集し、データレスキューを進めてきた(赤坂,2014)。また、データの品質チェックも兼ねて、19世紀後半~20世紀前半の降水量の季節進行とその年々変動に関する解析を行っている(赤坂ほか,2017など)。そこで、本調査では風向の季節変化に関する調査を追加し、マニラにおける19世紀後半の降水量と風向の季節変化及びそれらの年々変動を明らかにすることを目的とした。<br><br> <br><br><b>2. </b><b>使用データ及び解析方法</b><br><br> 19世紀後半のマニラ観測所では、多くの気象要素の観測を時間単位で行っていた。そのため、降水量は日単位であるものの、風向・風速や気圧に関しては時間単位のデータを得ることが出来る。本調査では、日本の気象庁図書室やイギリス気象庁等で収集した気象観測資料(Observatorio Meteorologico de Manila)から、1890年1月~1900年12月の日降水量と風向・風速の1時間値を電子化して使用した。1870年代のデータも入手済みであるが、1870年代は風向・風速が3時間値のため、本稿では風の1時間値が得られる1890年代を対象とした。欠損期間は1891年10月、1893年6月である。<br><br> まず、降水と風向の季節変化を示すために、風向の半旬最多風向、半旬降水量を算出した。また、赤坂ほか(2017)と同様に雨季入りと雨季明けを定義し、半旬最多風向の季節変化との関係を考察した。<br><br> <br><br><b>3. </b><b>結果と考察</b><br><br> 1890~1900年の平均半旬降水量と半旬最多風向を図1に示す。大まかにみると、乾季における最多風向は北よりもしくは東よりの風で、雨季には南西風が持続している。乾季である1~4月(1~23半旬頃)の最多風向をみると、1月は北風であるが、2~4月には貿易風に対応する東~南東の風がみられる。この時期の降水量は特に少ない。5月中旬頃(27半旬)になると、降水量が年平均半旬降水量を超え、雨季に入る。最多風向は5月初旬(26半旬)に南西に変わり、5月下旬(29半旬頃)以降、南西風が持続するようになる。これは南西モンスーンの発達に対応すると考えられる。降水量は、6月中旬(34半旬)に一気に増加し、9月中旬(53半旬)にかけて最も多くなる。この期間の最多風向は南西のままほぼ変化しない。降水量は9月下旬(54半旬)に急激に減少し、その後、変動しながら年末にかけて徐々に減少していく。最多風向は9月下旬にはまだ南西であるが、10月初旬(56半旬)になると急激に北よりに変化し、1月まで北よりの風が持続する。この時期が北東モンスーン期に対応すると考えられる。<br><br> 最多風向の季節変化はかなり明瞭であるが、雨季と乾季の交替時期との間には2~3半旬の遅れがみられる。この時期に関しては最多風向だけでなく、風向の日変化も含めてどのように風向が変化していくのかを把握する必要がある。<br><br> 本稿では1890年代の半旬最多風向と降水量の季節変化について気候学的特徴のみを示したが、発表では19世紀後半の風向と降水量の季節変化における年々変動についても議論する。
著者
赤坂 郁美 安藤 晴夫 横山 仁 大久保 さゆり 高橋 一之 泉 岳樹 三上 岳彦
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.120, no.2, pp.309-316, 2011-04-25 (Released:2011-06-30)
参考文献数
11
被引用文献数
5 7

To investigate the spatial and temporal variability of the urban heat island, a high-spatial density meteorological observation system was set up in the Tokyo ward area by Tokyo Metropolitan Research Institute for Environmental Protection (TMRIEP) and Tokyo Metropolitan University from July 2002 to March 2005. The observation system was named Meteorological Environmental Temperature and Rainfall Observation System (METROS) and consisted of two observation networks named METROS20 and METROS100; METROS20 was made to observe meteorological factors (wind direction and speed, pressure, rainfall etc.) on the roofs of 20 buildings; METROS100 was made to observe temperature and humidity in instruments screens of 106 elementary schools. Since April 2005, observations of temperature and humidity were continued with the instruments screens of elementary schools by TMRIEP. This observation network was maintained until March 2010. Based on their observations, temporal and spatial characteristics of thermal environment of Tokyo have been investigated such as temperature range, especially in summer. For example, warmer areas differ between daytime and nighttime as shown by spatial patterns in rate of time exceeding 30 degrees Celsius and number of sultry nights: the warmer area is located from central part to northern part of the Tokyo ward area during daytime and from central part to coastal area during nighttime.
著者
三上 岳彦 森島 済 日下 博幸 高橋 日出男 赤坂 郁美 平野 淳平 佐藤 英人 酒井 慎一 大和 広明
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-10-21

東京首都圏に設置した独自の気温・湿度観測網と気圧観測網のデータ等を用いて、夏季日中のヒートアイランドの時空間変動を明らかにするとともに、熱的低気圧の動態と局地的短時間強雨発生との関連およびその要因の解明を試みた。夏季の気温と気圧データに主成分分析を適用した結果、上位主成分に、海陸風循環、ヒートアイランド、北東気流に関連した空間分布が認められた。局地的短時間強雨の事例解析を行い、豪雨発生の前後で気圧の低下と上昇が起こり、海風起源の水蒸気量の増加が確認できた。領域気象モデル(WRF)による都市域での短時間強雨発生に関する数値実験を行い、都市域で夜間の降水が増えていることが明らかになった。
著者
松本 淳 久保田 尚之 藤部 文昭 林 泰一 山本 晴彦 財城 真寿美 寺尾 徹 村田 文絵 高橋 幸弘 山下 幸三 赤坂 郁美 遠藤 伸彦 森 修一 釜堀 弘隆 高橋 洋 山根 悠介 大塚 道子 遠藤 洋和
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-11-18

日本を含むアジア諸国における紙媒体や画像での日降水量データや台風経路等をデジタル化したデータセットを作成し、モンスーンアジア域における降雨強度の長期変化を解析した。その結果、日本では1930年以降、東北日本を中心に降雨強度が大きくなっていた。フィリピンでは1950年以降の夏季には強雨の増加傾向が、冬季には西海岸で乾燥の強化傾向がみられた。1940年代以前の傾向はこれらとは異なり、近年の変化傾向は数十年スケールでの変動の一部とみられる事、エルニーニョと地球温暖化の影響の両方の影響を受けている可能性が高い事がわかった。中部ベトナムでも近年の傾向と1940年以前の傾向に違いがみられた。