- 著者
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坂本 真惟
- 出版者
- 北海道大学文学研究科
- 雑誌
- 北海道大学大学院文学研究科研究論集 (ISSN:13470132)
- 巻号頁・発行日
- no.14, pp.1-14, 2014
1529年からの神聖ローマ皇帝カール5世によるイタリア凱旋巡行のために,イタリア各地ではその地の最高の芸術家を動員して,その祝祭に備えた。イタリア中部の都市シエナも例外ではなく,カール5世来訪を歓迎するために,政府は多くの芸術家に作品制作を依頼していた。その中で最も重要であったのが,ドメニコ・ベッカフーミ(1486-1551年)によるシエナ市庁舎コンチストーロの間(Palazzo Pubblico,Sala del Concistoro)の天井画である。これまで先行研究では,本作品に示された思想的な源泉を探ることが中心に論じられることが多く,その図像に関する考察は十分とは言い難い。そのため,本稿ではそれまでのシエナ美術との比較を通して,本作品にシエナ美術の伝統とベッカフーミの新しい工夫の双方が示されていることを指摘する。具体的には«スプリウス・カッシウスによる打ち首»と«アエミリウス・レピドゥスとフルウィウス・フラックスの和解»の二場面を取り上げ,「斬首の図像」,「抱擁の図像」,「背景の建築モティーフ」に注目する。以上の議論を通して,本作品がシエナ美術の伝統を踏襲しながらも,新たな工夫を加えて描かれ,そのことによって古代ローマにさかのぼるシエナの系譜と,政治・芸術の面での繁栄を誇った13-14世紀シエナの黄金時代の再来を示していると結論づける。