著者
坪原 紳二
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.84-95, 2012-10-25 (Released:2012-10-25)
参考文献数
27

オランダ・フローニンゲン市は1977年、交通循環計画(VCP)に基づき中心市街地を4セクターに分割し、車がセクター間を移動するには一度、環状線に出なければならないようにした。これによって中心市街地の自動車交通量は半減した。本論文はこのVCP導入の政治的プロセスを分析することで、環境にやさしい交通政策の実現にとって必要な民主主義について、示唆を与えることを目的とする。当時導入を主導したニューレフトは、リベラル・デモクラシーの実現手段である政治化、対極化、及び参加民主主義の実現手段である市民参加を、政治信条として掲げていた。ところが実際のVCPの導入プロセスにおいては、政治化と対極化は明確に見て取ることができたが、市民が参加する機会は極めて限られていた。このことは、環境にやさしい交通政策を実現するうえでは、参加民主主義よりもむしろリベラル・デモクラシーが有効であることを示唆している。
著者
坪原 紳二
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.221-232, 2015-10-25 (Released:2015-10-25)
参考文献数
23
被引用文献数
1

自転車の走行空間としてオランダの自治体は近年、街区の中を通り、あえて狭い幅員の中で自転車と車を混在させることで車の速度の抑制を図る通り、フィーツストラート(fietsstraat)の整備を急速に進めている。本稿はこのフィーツストラートについて出されている複数の設計指針と、整備事例を整理し、それらの間の共通点と相違点を明らかにすることで、日本における同通りの導入のための基礎データを提供することを目的とする。自転車・自動車交通量等のフィーツストラートの立地条件については、設計指針は一貫した方針を示しており、それに整備事例は基本的には従っていた。一方、道路設計については、特に自転車走行面の幅員等の断面構成について、設計指針間、事例間で大きな違いが見られた。またフィーツストラートの整備事例が増えるにつれて、利用者が道路空間における正しい位置取りを理解するようになる、といった傾向も確認された。
著者
坪原 紳二
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.89-100, 2015-04-25 (Released:2015-04-25)
参考文献数
31

本稿は自転車利用者の交通ルール順守を促す手段の一つとして、小学校での交通安全教育に着目する。そしてそのオランダにおける実態を、交通安全教育の小学校教育における位置づけ、そうした位置づけの背景、及び近年進められている交通安全教育の体系化の、大きく3つの視点から明らかにすることを目的とする。第1の交通安全教育の位置づけについては、オランダの小学校の多くが、少なくとも2週間に1回は交通安全教育を実施していることが分かった。その背景については、難易度の高い全国交通テストが直接的背景としてあり、また間接的背景として、実践的交通教育を可能とする教授法、及び質の高い交通教育の継続的実施を促す州の制度、交通安全ラベルがあった。最後に交通安全教育の体系化については、小学校を含む全生涯の各年齢階層に対して学習目標が設定されており、それに照らして教材を評価するツールキット、及びチェックリストが開発されていた。
著者
坪原 紳二
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.19-30, 2013-04-25 (Released:2013-04-25)
参考文献数
59

オランダ・フローニンゲン市の中心市街地北に接する北部公園は、今日、緑豊かな市民の憩いの場として、また主要自転車ルートとして機能している。しかし同公園はかつて、自動車の通過交通路として使われており、同市の労働党は、ここから車を排除することを1970年代から政策に掲げてきた。本論文は1990年代に同公園からの車の排除、そして結果としての主要自転車ルートの整備が実現するまでの経過を、その間の参加の結果、及び政党の動向の観点から分析したものである。車の排除に対しては経済団体はもとより周辺住民も強く反発し、参加の結果は圧倒的に車の排除に反対であった。しかし労働党内からの圧力によって、同党リーダーは最終的に車を公園から排除することを選択し、市議会は1票差で排除を可決した。このことは、環境に負荷を与えない交通政策を導入していくうえでの、政党を媒介としたリベラル・デモクラシーの有効性を示唆している。
著者
坪原 紳二
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.125-136, 2012-10-25 (Released:2012-10-25)
参考文献数
19
被引用文献数
1

自転車は環境にやさしい乗り物として注目される一方、日本では歩行者・自転車間の事故が増加しており、自転車の走行空間を整えることが大きな課題となっている。そこで本論文は、そのための知見を得るために、自転車先進国と言われるデンマーク及びオランダの自転車走行空間の計画論を、両国で出されているデザインマニュアル、及び自治体(オーデンセ市とフローニンゲン市)の計画書を通じ分析した。その結果、両国の相違点として、オランダの方が自転車走行空間の整備手法を包括的・具体的に検討しており、また、自転車走行空間のネットワークを形成することをより重視していることが判明した。一方、日本にとって参考になる共通点として、両国とも、自転車が並走できるだけの幅員を確保しようとしていること、日本で一般的な歩道と同一平面を走らせることには慎重なこと、さらに歩行者専用商店街で自転車の走行を認めることに積極的なことが分った。