著者
飯塚 進一 山本 理絵 河谷 雅人 埇田 真彰 金指 秀明 秋枝 一基
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.10, pp.864-870, 2013-10-15 (Released:2013-12-30)
参考文献数
20
被引用文献数
1

向精神薬の服用や薬物過量服薬に伴う意識障害により,同一姿勢で四肢を長時間圧迫し横紋筋融解症やクラッシュ症候群,神経麻痺を来す報告は散見されるが,上記に加えて肺塞栓症を併発した稀な症例を経験したので報告する。症例は73歳の男性で,躁鬱病の外来治療中に内服薬が変更され過鎮静の状態となり,胡坐の状態で約10時間就眠した。覚醒後より右下肢の運動障害,右臀部から大腿部の腫脹と疼痛がみられ当院に救急搬送された。搬送時の意識状態はJCS 1で呼吸循環状態は安定していたが,身体所見上,右臀部から大腿部の腫脹と圧痛,坐骨神経麻痺を認めた。診察中に呼吸困難と酸素飽和度低下,意識障害を来したが,数分間で改善がみられた。病歴聴取で上記の発症状況が判明したため,CT血管造影検査を施行したところ,右中殿筋から大腿四頭筋の筋腫脹と肺塞栓症,右ヒラメ静脈内の深部静脈血栓症を認めた。また血液検査ではCPK 52,700 U/lと上昇しており,右下肢の長時間圧迫に伴うクラッシュ症候群,坐骨神経麻痺,右下腿深部静脈血栓症および肺塞栓症と診断し,十分な輸液と抗凝固療法を開始した。その後,横紋筋融解症や腎機能障害は改善し,下肢深部静脈血栓症や肺塞栓症の再発はなかった。薬物服用後に意識障害を来し,とくに下肢の長時間圧迫によるクラッシュ症候群を発症した症例では,経過中に肺塞栓症を合併する恐れがあるため注意を要する。