著者
曽我 太三 櫻井 馨士 安岡 尭之 松島 純也 坪内 陽平 金指 秀明 山本 理絵 秋枝 一基
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.458-461, 2020-12-28 (Released:2020-12-28)
参考文献数
5

われわれは, 致死的多発外傷に対しハイブリッド手術室を用いて治療し救命し得た1例を経験したので報告する。症例は54歳の男性。自転車走行中に2tトラックと衝突し受傷した。当院搬送時は血圧低下, 意識障害を呈しており, 大動脈内バルーン遮断後に全身CTで外傷性胸部大動脈損傷, 外傷性血気胸, 腹腔内出血を伴う脾損傷, 不安定型骨盤骨折などの損傷を認めた。ハイブリッド⼿術室で緊急開腹を行った後, 脾損傷に対する塞栓術で止血を得た。術後は合併症なく経過し第52病日に独歩での自宅退院となった。出血性ショック症例に対する脾温存に関しては慎重に適応を判断する必要があるが, ハイブリッド手術室での開腹術と血管内治療への迅速な移行により救命できたと考えられた。
著者
山本 理絵 金指 秀明 坪内 陽平 櫻井 馨士 秋枝 一基
出版者
一般社団法人 日本中毒学会
雑誌
中毒研究 (ISSN:09143777)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.233-239, 2023-09-10 (Released:2023-11-08)
参考文献数
13

急性薬毒物中毒の基本は全身管理であるが,起因物質をある程度推測できる幅広い知識と適切な対処を行う技術が必要である。救急医療に携わる医療従事者からは「中毒は苦手」との印象を受けることが多いが,中毒に対する認識の実態調査はほとんど行われていない。そこで,中毒に対する認識の実態を明らかにするため,1施設の医療機関と同院にもっとも搬送件数の多い消防機関に対して,2018年に救急部に所属する看護師,2019年に臨床研修医,2020年に救急救命士を対象に薬毒物中毒に対する意識調査を実施した。中毒の得意度を5段階で自己評価(1:苦手,2:やや苦手,3:どちらでもない,4:やや得意,5:得意)したところ,1と2が半数以上で,5はいなかった。中毒を苦手とする理由は,「種類が多い」「経験不足」のほか,「精神科対応が困難」や「二次被害・危険性」,看護師では「かかわり方」などであった。3つの意識調査から,3職種とも中毒は苦手であることがわかり,中毒が苦手な理由は職種により多彩であることがわかった。中毒に対する自己評価を数値化したことは,今後の教育による理解度の指標として活用できることが推察された。
著者
矢嶋 尚生 鮫島 雄祐 松島 純也 坪内 陽平 金指 秀明 櫻井 馨士 長島 義宣 秋枝 一基
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.121-125, 2023-03-01 (Released:2023-03-01)
参考文献数
16

甲状腺クリーゼの誘引として感染や虚血性心疾患などが知られている。甲状腺クリーゼの背景にある甲状腺中毒症の原因にはバセドウ病が多いが,無自覚・未診断のバセドウ病も存在する。近年,コロナワクチン接種後にバセドウ病を発症したという報告が増えている。今回我々は,新型コロナワクチン初回接種後に甲状腺クリーゼを発症した患者がその後バセドウ病と診断された症例を経験した。症例は既往のない67歳男性で,新型コロナワクチン接種後の翌朝に発症した倦怠感と呼吸困難により救急要請した。心電図検査,心臓カテーテル検査で虚血による急性心不全と診断され,治療後にICUへ入室した。来院時より頻脈が継続し,入院後に発熱も認めたため,甲状腺ホルモンなどを調べたところ,甲状腺クリーゼおよびバセドウ病と診断された。甲状腺クリーゼは,急病や外傷だけによらず,ワクチン接種後にも発症することがある。
著者
飯塚 進一 山本 理絵 河谷 雅人 埇田 真彰 金指 秀明 秋枝 一基
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.10, pp.864-870, 2013-10-15 (Released:2013-12-30)
参考文献数
20
被引用文献数
1

向精神薬の服用や薬物過量服薬に伴う意識障害により,同一姿勢で四肢を長時間圧迫し横紋筋融解症やクラッシュ症候群,神経麻痺を来す報告は散見されるが,上記に加えて肺塞栓症を併発した稀な症例を経験したので報告する。症例は73歳の男性で,躁鬱病の外来治療中に内服薬が変更され過鎮静の状態となり,胡坐の状態で約10時間就眠した。覚醒後より右下肢の運動障害,右臀部から大腿部の腫脹と疼痛がみられ当院に救急搬送された。搬送時の意識状態はJCS 1で呼吸循環状態は安定していたが,身体所見上,右臀部から大腿部の腫脹と圧痛,坐骨神経麻痺を認めた。診察中に呼吸困難と酸素飽和度低下,意識障害を来したが,数分間で改善がみられた。病歴聴取で上記の発症状況が判明したため,CT血管造影検査を施行したところ,右中殿筋から大腿四頭筋の筋腫脹と肺塞栓症,右ヒラメ静脈内の深部静脈血栓症を認めた。また血液検査ではCPK 52,700 U/lと上昇しており,右下肢の長時間圧迫に伴うクラッシュ症候群,坐骨神経麻痺,右下腿深部静脈血栓症および肺塞栓症と診断し,十分な輸液と抗凝固療法を開始した。その後,横紋筋融解症や腎機能障害は改善し,下肢深部静脈血栓症や肺塞栓症の再発はなかった。薬物服用後に意識障害を来し,とくに下肢の長時間圧迫によるクラッシュ症候群を発症した症例では,経過中に肺塞栓症を合併する恐れがあるため注意を要する。