著者
西 真弓 笹川 誉世 堀井 謹子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.149, no.2, pp.72-75, 2017 (Released:2017-02-01)
参考文献数
25
被引用文献数
1

急速に変化する現代社会,幼少期の養育環境の劣悪化などのストレスは想像以上に大きいものと推察される.成人が患う多くの精神神経疾患において,幼少期の虐待(身体的,性的および心理的虐待,育児放棄等)は最高レベルの危険因子であるとも言われている.人をはじめとする様々な動物で幼少期養育環境の劣悪化が,視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA-axis)等のプログラミングに影響を及ぼし,成長過程及び成長後の脳の機能・構造に重大かつ継続的な諸問題を引き起こし,成長後にうつ病,不安障害,心的外傷後ストレス障害(PTSD),薬物依存,摂食障害,メタボリックシンドロームなど様々な疾患に罹患する確率が上昇することなどが報告されている.しかしながら,幼少期の一過性のストレスが生涯にわたって行動に影響を及ぼす分子基盤は未だ充分には解明されていない.私たちは,幼児虐待のモデル動物として用いられる母子分離(maternal separation:MS)ストレス負荷マウスを用い,幼少期ストレスが発達期および成長後の脳に及ぼす影響を,遺伝子と環境との相互作用を切り口に,分子から行動レベルまで生物階層性の段階を追って研究を進め,幼少期養育環境と精神神経疾患などとの関連性の分子基盤の解明,さらに生育後の精神神経疾患の予防・治療法の開発を目指している.本特集においては,MSがHPA-axisの最終産物であるコルチコステロイドの血中濃度に及ぼす影響,神経活動マーカーのc-Fosを指標にした,MSによる脳の活性化部位の解析から興味深いc-Fosの発現変化を示した扁桃体延長領域等におけるDNAマイクロアレイ解析による遺伝子発現の変動について紹介する.そして,これらの解析結果を基に行った,報酬行動等に関連する行動実験の結果についても示す.
著者
堀井 謹子
出版者
奈良県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

動物は、新奇物体に遭遇した際、その危険性や情報を、リスクアセスメントと呼ばれる行動を介して得ようとする。今回、マウスを用いた実験により、視床下部のPeFAと呼ばれる領域の神経細胞が、新奇物体に対するリスクアセスメントや、新奇物体に対する積極的防御行動とされる埋める行動(burying)の制御に関与することが明らかになった。burying行動の亢進が認められる自閉症モデルマウスBTBRを用いて、新奇物体試験を行った結果、物体近傍の滞在時間におけるリスクアセスメント行動の割合が低下していることが明らかになった。また、PeFA神経細胞の投射先である中隔の構造もコントロールマウスと異なっていた。