著者
堀川 美奈 百瀬 公人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A3O2046, 2010

【目的】<BR>術後早期からpatella settingなど特に内側広筋(以下VM)に注目して大腿四頭筋の筋活動増加を目的とした等尺性収縮練習を積極的に行っているが,筋収縮が充分に得られない症例が多い. VMは古くから膝関節最終伸展域にて有意に活動すると考えられていたが,LiebらはVMだけでは膝関節を伸展できないことや膝関節伸展角度を大腿四頭筋各筋の働きに差はない事を報告している.また,筋は静止長で最も筋力が発揮しやすいとされているが,生体で静止長を明らかにすることは不可能であり,実際に筋活動を得られやすい肢位を予測するのは困難である.そこで今回, 等尺性収縮下のVM・大腿直筋 (以下RF)・外側広筋(以下VL)に着目し,表面筋電図を用いて膝関節屈曲角度別の筋活動と膝伸展トルクの変化を調査したので報告する.<BR><BR>【方法】<BR>対象は膝関節に外傷既往のない健康成人男性10名,女性5名の計15名(平均年齢25.8±3.0歳)の右膝とした.測定肢位は股関節屈曲75°・内外旋中間位,足関節は測定直前に背屈0°に設定した.膝関節屈曲角は0 °,15°,30°,45°,60°,75°,90°とし,各肢位で3秒間膝関節伸展の最大等尺性収縮を行った.筋電図は日本光電社製誘発電位検査装置「MEB5504」を用い,VM,RF,VLの最大等尺性収縮時の筋波形が安定した0.3秒間の平均積分値を測定した.VM,RF,VLに電極を貼付し,電極間の距離は3cm,アース電極は左手背に貼り付けた.膝関節屈曲90°を基準とし,正規化のため%IEMGに換算した.膝関節の各肢位でVM,RF,VLの筋活動を比較するため一元配置分散分析を行い,事後検定としてPSL法を用いた.筋力の測定はLumex社製Cybex350,CSMI社製Humacシステム を用い,膝関節屈曲角の各肢位での膝伸展ピークトルクの平均値を用いた. また,計測は全て同一検者が3回測定した平均値を用いて行った.<BR><BR>【説明と同意】<BR>対象者には研究内容を説明し同意を得て実験を行った.<BR><BR>【結果】<BR>膝関節屈曲30°でVM・VLに比しRF(p=0.007),膝関節屈曲45°でVMに比しRF(p=0.026),膝関節屈曲60°でVMに比しRF(p=0.043)の%IEMGが有意に大きかった.また,膝伸展ピークトルクは膝関節屈曲75°で最大を示した.<BR><BR>【考察】<BR>今回の実験では膝関節伸展0°でVMは他の筋と比較して有意な%IEMGの上昇は認められず,3筋の活動に有意差は認められなかった.膝関節屈曲30°でVMはRFより有意に活動が低く、膝関節屈曲45°,60°でVMはRF,VLより有意に活動が低かった.市橋らの報告では足関節フリー(殆どが底屈位)の条件で,VM,RFの筋活動は殆ど同じとされているが,今回の実験ではRFの筋活動が大きい傾向にあった. <BR>Smidtは膝伸展トルクは膝関節屈曲45°~60°で最大となり,膝関節角度が伸展するに従い低下すると報告している.Rajalaらは膝屈曲50°~60°で最大となることを報告している。今回の実験では膝関節屈曲75°で最大値をとり,膝を伸展するに従って低下した.これらは市橋らの報告と一致した.Smidtは膝の伸展動作においては、内的モーメント・アームは膝関節屈曲45°で最大値をとることを報告している.内的モーメント・アームは膝関節屈曲75°では最大長よりも短くなっているため,この角度で膝伸展トルクが最も大きかった理由は大腿四頭筋の筋力がどの角度よりも最大であるといえる.Bandyらはより膝関節を屈曲した角度で等尺性収縮を行った群では,伸展した角度での筋力も増加していたが,より伸展位で運動した場合には屈曲位での筋力増強は得られなかったと報告している.この報告を参考にすると,等尺性収縮に限っては,膝伸展トルクが最大となる膝関節屈曲75°で筋力強化を行えば,より効率的に大腿四頭筋の筋力増強が図れる可能性があると推察される.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>膝関節角度別に筋力を調査することで,特に角度制限がある症例に対して臨床で最も効率的な筋力強化練習の肢位を予測する手がかりとなると考える.<BR>