著者
黒部 恭史 牛山 直子 百瀬 公人
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.95-103, 2021 (Released:2021-09-16)
参考文献数
23

本研究の目的は,1)歩行練習開始日の総歩行距離と退院時の歩行再獲得の関連を明らかにすること,2)各要因(年齢,骨折型,術式,認知機能障害,受傷前の歩行能力)と退院時の歩行再獲得の関連を明らかにし,退院時の歩行再獲得と有意な関連があった要因間で予測精度を比較すること,3)年齢,骨折型,術式,認知機能障害,受傷前の歩行能力が歩行練習開始日の総歩行距離に違いをもたらすかを明らかとすることである。受傷前に歩行が自立していた65歳以上の高齢者を対象とした。診療録から年齢,骨折型,術式,改訂長谷川式簡易知能評価スケール(The revised version of the Hasegawa Dementia Scale;HDS-R),受傷前の歩行能力,歩行練習開始日の総歩行距離,退院時の50m歩行獲得の可否を調査した。二項ロジスティック回帰分析を用いて退院時の50m歩行再獲得の可否と各要因の関連を調べた。退院時の50m歩行再獲得の可否と有意な関連が認めた要因はAUCを算出し比較した。また,各要因を2群間に分類し,歩行練習開始日の総歩行距離の比較を行なった。退院時の50m歩行再獲得の可否と有意であった要因は歩行練習開始日の総歩行距離,年齢,受傷前の歩行能力であった。予測精度は要因間で有意差はなかった。歩行練習開始日の総歩行距離の比較で群間で有意差を認めた要因は,年齢,認知機能障害,受傷前の歩行能力であった。以上より,歩行練習開始部の総歩行距離は退院時の歩行機能と関連があることが示唆された。
著者
牛山 直子 田中 美和 百瀬 公人 若田 真実
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.C0539, 2008

【目的】平成18年4月の診療報酬改正により運動器疾患の治療期間は150日に制限された。Diercksらは凍結肩の回復は2年後でも63%と報告している。しかし、治療内容や治療期間、可動域制限の影響は十分に述べられていない。他の研究報告も治療期間、内容などの検討は不十分である。今回の研究の目的は肩関節周囲炎患者の治療期間と初期評価時屈曲角度との関係を明らかにすることである。<BR>【方法】<BR>対象は平成14年4月から平成18年3月までに当院整形外科を受診し、肩関節周囲炎と診断され理学療法開始し、平成19年11月までに終了となった患者51名。障害肩は右26肩、左25肩で、両側の診断を受けた2名は、可動域制限の重度な肩をデータとした。性別は男性19名、女性32名、平均年齢は61.5±13.1歳であった。理学療法は、リラクゼーションを目的にしたマッサージと痛みを出さない範囲での肩関節可動域訓練、姿勢調整などを行い、症状改善と患者の同意をもって終了とした。調査項目はカルテより後方視的に、治療期間(理学療法開始~終了の日数)と初期評価時屈曲角度(角度)とした。患者を角度別に0~80度の重度拘縮群(重度群)、81~120度の中等度拘縮群(中等度群)、121~150度の軽度拘縮群(軽度群)、151度以上の拘縮無し群(無し群)の4群に分け治療期間について比較した。統計は群間の比較として分散分析を用い、全データの治療日数と角度との関係について相関係数を求めた。有意水準は危険率0.05とした。<BR>【結果】<BR>4群の内訳は、重度群3例、中等度群15例、軽度群が21例、無し群が12例であった。平均治療期間は重度群291±180日、中等度群382±129日、軽度群243±193日、無し群173±212日であり、4群間に有意差は無かった。治療期間と角度との関係は、相関係数-0.274、危険率は0.052で有意な相関が認められなかった。群別に治療期間をまとめると5ヵ月以内に終了した割合は、重度群0%、中等度群20%、軽度群43%、無し群73%であった。6ヵ月から12ヵ月以内に終了した割合は重度群67%、中等度群40%、軽度群38%、無し群9%であった。1年以上の割合は重度群33%、中等度群40%、軽度群19%、無し群18%であった。2年以内に99%が終了した。<BR>【考察】<BR>初期評価時の屈曲角度と治療期間には有意な相関が無く、4群間にも有意差が無かった。しかし可動域制限が重度だと治療期間が長い傾向にあることがわかった。可動域制限が軽度でも治療期間が1年以上だった割合が約2割あり、屈曲角度の他にも治療期間に影響を与える因子があると示唆される。したがって治療が長期化する要因を追求する研究が今後必要だと考えられる。<BR>【まとめ】<BR>51名の肩関節周囲炎患者の治療期間と初期評価時屈曲角度との関係を重症度別に調査した。治療期間と角度の関係には統計的に有意な差が認められなかった。可動域制限が治療期間に影響を与えることが示唆されたが、他の要因についても検討が必要である。
著者
百瀬 公人 三和 真人 赤塚 清矢 伊橋 光二
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.A0067, 2007

【目的】正常歩行中の遊脚相における膝関節屈曲は、積極的なハムストリングスの筋活動によるものではないと言われている。正常歩行中には遊脚相の後半でハムストリングスの筋活動が認められるが前半には見られない。遊脚相の膝関節屈曲は、下肢全体が伸展している時に大腿部の屈曲が生じることにより下腿が二重振り子状態となりその結果屈曲すると報告されている。片麻痺患者ではハムストリングスの単独収縮が困難なことや大腿四頭筋の筋緊張の亢進もあり、歩行中の膝関節屈曲は困難である。しかし、片麻痺患者でも二重振り子の作用を用いれば積極的なハムストリングスの筋収縮を必要とせず、大腿四頭筋の筋緊張の調整を学習することで、遊脚相の膝屈曲が可能となることが示唆される。正常歩行中にはハムストリングスの筋活動が遊脚相前半では見られないが、歩行速度が遅くなると二重振り子の働きが弱くなり、下腿を筋力で保持しなければならないと思われる。二重振り子の作用が有効に働く歩行速度以上であれば、片麻痺患者でもハムストリングスの筋収縮を必要とせず下腿を屈曲することができ、遊脚時のクリアランスは十分にあることになると思われる。そこで今回の研究の目的は、健常者において歩行速度を変化させ、遊脚相のハムストリングスの筋収縮状態から二重振り子を利用し始める歩行速度を明らかにすることである。<BR>【方法】被験者は健常な男性7名で、平均年齢20.0±0.5歳、平均身長170.7±2.7、平均体重642.4±6.2kgであった。歩行の計測には3次元動作解析装置と床反力計、表面電極による動作筋電図を用いた。3次元動作解析で得られたデータはコンピュータにて解析し、関節角度などを算出した。筋電図は内側広筋、大腿二頭筋長頭等より導出しバンドパス処理後、全波正流し、最大収縮時の積分値をもとに歩行時の筋活動を積分値の百分率として求めた。歩行はメトロノームにてケイデンスを規定し、ゆっくりとした歩行から速い歩行までを計測した。<BR>【結果】ハムストリングスの筋活動はゆっくりとした歩行から速い歩行まで計測された全ての歩行で筋活動が見られ、筋活動がほとんど無い二重振り子の作用が明らかとなる歩行速度は求めることができなかった。<BR>【考察】いわゆる正常歩行ではハムストリングスは遊脚相の後半で筋活動が認められる。今回の結果では、ハムストリングスの筋活動は歩行速度に影響を受けなかった。歩行速度をケイデンスで規定しようとしたため、メトロノームに合わせることが歩行時のハムストリングスの筋活動に影響したと考えられる。今後は歩行速度を厳格に規定しない方法での研究が必要であると思われた。<BR>【まとめ】歩行速度がハムストリングスの筋活動に与える効果について、3次元動作解析と筋電図を用いて解析した。ケイデンスを規定するとハムストリングスの活動は速度による影響をあまり受けなかった。
著者
鈴木 克彦 伊橋 光二 南澤 忠儀 百瀬 公人 三和 真人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.552, 2003 (Released:2004-03-19)

【はじめに】 膝関節(脛骨大腿関節)の回旋運動は,下肢全体の回旋運動には必要不可欠である。しかしながら,膝回旋可動域はゴニオメーターを用いて計測するのは極めて困難である。現在明らかにされている計測方法は,超音波,レントゲン,CTを用いたものであり,簡便な方法は明らかにされていない。本研究の目的は,解剖学的標点を基に,臨床で有用かつ簡便な方法としてdeviceを用いた膝回旋ROM計測の方法を試み,定義されている股関節の回旋ROを参考にして,左右差から検討したので報告する。【対象と方法】 対象は下肢に何らかの障害や既往のない健常成人34名(男性16名,女性18名),平均年齢20.5歳である。膝回旋ROMの計測は,VICON clinical managerで使用するKnee Alignment Deviceを大腿骨内外側上顆および脛骨・腓骨の内外側果に貼付した。被験者は膝関節90°屈曲した腹臥位となり,1名の理学療法士が他動的に内外旋させ,下腿長軸延長線上からデジタルカメラを用いて記録した。記録した画像はPCに取り込み,内旋および外旋時の大腿骨内外側上顆を結ぶ線と脛骨・腓骨の内外側果を結ぶ線のなす角度を1°単位で計測した。股関節の回旋ROMは,股・膝関節を90°屈曲した背臥位でゴニオメーターを用いて1°単位で計測した。統計学的検定は相関係数の検定を用い,危険率5%を有意水準とした。【結果】 被験者34名,68関節における股関節の内外旋の合計ROMの平均(SD)は,右86.8°(10.8°),左88.5°(9.1°)であり,左右のROMの間に強い相関関係が認められた(p
著者
堀川 美奈 百瀬 公人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A3O2046, 2010

【目的】<BR>術後早期からpatella settingなど特に内側広筋(以下VM)に注目して大腿四頭筋の筋活動増加を目的とした等尺性収縮練習を積極的に行っているが,筋収縮が充分に得られない症例が多い. VMは古くから膝関節最終伸展域にて有意に活動すると考えられていたが,LiebらはVMだけでは膝関節を伸展できないことや膝関節伸展角度を大腿四頭筋各筋の働きに差はない事を報告している.また,筋は静止長で最も筋力が発揮しやすいとされているが,生体で静止長を明らかにすることは不可能であり,実際に筋活動を得られやすい肢位を予測するのは困難である.そこで今回, 等尺性収縮下のVM・大腿直筋 (以下RF)・外側広筋(以下VL)に着目し,表面筋電図を用いて膝関節屈曲角度別の筋活動と膝伸展トルクの変化を調査したので報告する.<BR><BR>【方法】<BR>対象は膝関節に外傷既往のない健康成人男性10名,女性5名の計15名(平均年齢25.8±3.0歳)の右膝とした.測定肢位は股関節屈曲75°・内外旋中間位,足関節は測定直前に背屈0°に設定した.膝関節屈曲角は0 °,15°,30°,45°,60°,75°,90°とし,各肢位で3秒間膝関節伸展の最大等尺性収縮を行った.筋電図は日本光電社製誘発電位検査装置「MEB5504」を用い,VM,RF,VLの最大等尺性収縮時の筋波形が安定した0.3秒間の平均積分値を測定した.VM,RF,VLに電極を貼付し,電極間の距離は3cm,アース電極は左手背に貼り付けた.膝関節屈曲90°を基準とし,正規化のため%IEMGに換算した.膝関節の各肢位でVM,RF,VLの筋活動を比較するため一元配置分散分析を行い,事後検定としてPSL法を用いた.筋力の測定はLumex社製Cybex350,CSMI社製Humacシステム を用い,膝関節屈曲角の各肢位での膝伸展ピークトルクの平均値を用いた. また,計測は全て同一検者が3回測定した平均値を用いて行った.<BR><BR>【説明と同意】<BR>対象者には研究内容を説明し同意を得て実験を行った.<BR><BR>【結果】<BR>膝関節屈曲30°でVM・VLに比しRF(p=0.007),膝関節屈曲45°でVMに比しRF(p=0.026),膝関節屈曲60°でVMに比しRF(p=0.043)の%IEMGが有意に大きかった.また,膝伸展ピークトルクは膝関節屈曲75°で最大を示した.<BR><BR>【考察】<BR>今回の実験では膝関節伸展0°でVMは他の筋と比較して有意な%IEMGの上昇は認められず,3筋の活動に有意差は認められなかった.膝関節屈曲30°でVMはRFより有意に活動が低く、膝関節屈曲45°,60°でVMはRF,VLより有意に活動が低かった.市橋らの報告では足関節フリー(殆どが底屈位)の条件で,VM,RFの筋活動は殆ど同じとされているが,今回の実験ではRFの筋活動が大きい傾向にあった. <BR>Smidtは膝伸展トルクは膝関節屈曲45°~60°で最大となり,膝関節角度が伸展するに従い低下すると報告している.Rajalaらは膝屈曲50°~60°で最大となることを報告している。今回の実験では膝関節屈曲75°で最大値をとり,膝を伸展するに従って低下した.これらは市橋らの報告と一致した.Smidtは膝の伸展動作においては、内的モーメント・アームは膝関節屈曲45°で最大値をとることを報告している.内的モーメント・アームは膝関節屈曲75°では最大長よりも短くなっているため,この角度で膝伸展トルクが最も大きかった理由は大腿四頭筋の筋力がどの角度よりも最大であるといえる.Bandyらはより膝関節を屈曲した角度で等尺性収縮を行った群では,伸展した角度での筋力も増加していたが,より伸展位で運動した場合には屈曲位での筋力増強は得られなかったと報告している.この報告を参考にすると,等尺性収縮に限っては,膝伸展トルクが最大となる膝関節屈曲75°で筋力強化を行えば,より効率的に大腿四頭筋の筋力増強が図れる可能性があると推察される.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>膝関節角度別に筋力を調査することで,特に角度制限がある症例に対して臨床で最も効率的な筋力強化練習の肢位を予測する手がかりとなると考える.<BR>