著者
堤田 賢人 白岩 祐子
出版者
Society for Human Environmental Studies
雑誌
人間環境学研究 (ISSN:13485253)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.31-36, 2020 (Released:2020-06-30)
被引用文献数
2

死者は生者よりもポジティブに評価される傾向がある。death positivity biasと呼ばれるこの現象は、シナリオ実験と実際の雑誌記事の両方で確認されている。絵画の世界でも同様に、ゴッホやモジリアーニなど、死後になって評価が高まる画家の存在が知られている。死後に評価が向上する現象は、ゴッホのように傑出した才能をもつ特別な画家以外でも生起するのだろうか。つまり、death positivity biasは絵画全般において生起するのだろうか。この点を検証することが本研究の第一の目的であった。第二の目的は、上記でdeath positivity biasが確認されたとして、それが画家の死による効果なのか、あるいは作品の希少性の高まりによる効果なのかを検討することであった。筆者らはシナリオ実験を行い、架空の無名画家の死亡条件と存命条件、さらに活動停止条件で、絵画および画家への評価を比較した。分散分析の結果、death positivity biasは確認されなかった。この結果は、先行研究がターゲットとした実業家や一般人などとは異なり、画家は死による恩恵を受けにくいことを示している。death positivity biasの発生境界条件や今後の研究の方向性が議論された。