著者
堺 健司
出版者
同志社大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

電磁波吸収体は,無線通信機器が使用される環境で通信障害などの問題を解決する重要なデバイスである。無線通信機器が数GHz~数十GHzの電磁波を使用し,使用周波数の変化も激しいため,高周波化,周波数の変化に対応した電磁波吸収体が求められている。また,実用化を考えると低コスト化,量産可能なことも重要となる。電磁波の吸収は,吸収体材料の複素比透磁率と複素比誘電率により決定されるが,本研究ではこれらの値を人工的に制御でき,しかも汎用材料のみで構成可能なメタマテリアルを電磁波吸収体に応用することを試みた。メタマテリアルは導体などの周期配列により実現できるが,本研究では樹脂中に磁性体粒子を均一分散して粒子の周期配列によりメタマテリアルを実現した.また,立体構造を容易に作製できる光造形法を用いて,樹脂の周期構造を作製し,金属を蒸着して導体の周期配列を作製して電磁波吸収体へ応用することも試みた.樹脂を溶解し磁性体粒子と混合することで,粒子間に樹脂の層が形成され,個々の粒子が孤立して樹脂中に分散した.この方法で作製した試料は,数GHz~数十GHzで市販の吸収体よりも良好な吸収特性を示し,粒子の分散方法により吸収特性が改善できることを明らかにした.この成果は,特殊な材料を必要とせず材料の構造のみで特性を改善できるため,低コスト化など吸収体の設計において有用な技術となる.また,電磁波の吸収に有効であるコイルの周期配列を,光造形法と金属の蒸着を組み合わせ容易に作製できることを示した.作製したコイルの周期配列に対して10~20GHzの電磁波を入射し,透過波と反射波を調べた結果,金属を蒸着しなかった試料の特性と異なる結果が得られた.従って,最適な周期配列や形状を選択することで高機能な吸収体の作製が期待でき,光造形法を用いて実用的な電磁波吸収体を容易に設計できることを明らかにした。