著者
塘 二郎 淵之上 康元 淵之上 弘子
出版者
Japanese Society of Tea Science and Technology
雑誌
茶業研究報告 (ISSN:03666190)
巻号頁・発行日
vol.1956, no.7, pp.14-20, 1956-04-30 (Released:2009-07-31)
参考文献数
5
被引用文献数
1 3

実生繁殖を行うにあたり重要な問題である自家結実歩合がきわめて低いので,その原因を追求するため自家受精に関する研究を行い,併せて人為的処理による効果について検討を加え,大要次のごとき結果を得た。1.自家結実歩合は過去5年間の平均で2.2%を示し,他家の29.5%に比しきわめて低い。更に1顆中の種子数少く,自殖種子の発芽もく,実用的には自家不結実性と見なし得る。2.授粉後採種にいたるまで落顆は多い。その落顆実の性質を明らかにするため,落顆様相の異なる2品種を供試し,それらの自家・他家及び無授粉の落顆様相を講査するとともに,胚嚢の発育状況を追求したが,自家の落顆実は不受精によるものが多いのに比し,他家のそれは生理的落顆実が多い。3.自家柱頭上での花粉発芽勢及び花粉管伸長は他家柱頭上における場合に比し遙かに劣る。4.この柱頭上での差異は花柱内によく現われ,自家は花粉管の数及び伸長速度において劣り,他家に遅れて花柱基部に達する。その大部分のものが花柱基部~子房上部で停滞し,この停滞による花粉管の異状現象は他家の6倍以上に達する。ごく少数のものが子房に侵入するがその後の伸長も悪心。受精率は6.8%で,他家のそれの17.4%にすぎずきわめて低い。5.雌蕋各部の組織自家花粉の発芽及び花粉管の伸長を抑圧するが,その程度は子房部が最も強く,子房部位別では胚珠より子房上部のほうが強い。抑圧物質の分布系統は胎座部~子房上部,花柱,柱頭へと大略推定できるが,分布個所は不明である。6.以上の結果より,自家不和合程度の高い現象の機構は,柱頭上の花粉発芽力が弱く,花柱内の伸長速度が遅いことも否定できないが,花柱基部~子房上部での花粉管の著しい停滞が決定的な要因である。7.ホルモン撒布は自家柱頭上の発芽力及び花柱内の花粉管の伸長を促進する効果はきわめて著しい。しかしそれらも子房上部での停帶を超え得ず,子房への侵入及び受精促進の効果は僅かである。8.幼花及び老花授粉,特に後者の場合に,柱頭上の発芽力及び花柱内の花粉管伸長は促進されているが,受精を促し得たのは老花の場合のみでその程度は低い。9.末期授粉による効果は全くみられない。10.以上の結果より,人為的処理は柱頭上の発芽力及び花柱内の花粉管伸長までは促進する効果は著しいが,花柱基部~子房上部の抑圧力に打ち勝つて伸長を促し,停滞を打破し得ないために,一部の子房への侵入を促進し,受精時期を早め得ることは有り得ても,受精促進の効果は期待できない。