- 著者
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頼 誠
淺田 孝幸
塘 誠
- 出版者
- 公益財団法人 メルコ学術振興財団
- 雑誌
- メルコ管理会計研究 (ISSN:18827225)
- 巻号頁・発行日
- vol.5, no.1, pp.15-30, 2012
純粋持株会社(以下HDと略す)制をとったものの業績の上がらない企業がある。その原因は,本社の統治のための経営力としてのパワーが弱く事業会社が本社の意図しない行動をとることに起因する可能性がある。本稿のテーマは,事例研究を通じて得られた結果をもとに,各事業会社がその事業内容に応じて自主的にかつ事業最適をねらって行う事業力としての遠心力に対抗できるグループ全体を統治する力としての求心力をどのように強化すればよいかを提案することである。HD制を採用している企業グループを観察すると,事業間での関連性が少なく事業毎に別々の意思決定をする方が合理的な多角化企業,M&Aなど組織再編を行う必要性の高い企業,さらにはグローバル企業で各地域や国を単位に事業構造を切り分けている企業において採用している場合が多いように思われる。しかし,それらのグループ全体を統括するHDは,一方では,人,モノ,カネ,情報などの経営資源を,必要に応じてHDの支配下に置けるようなマネジメント・コントロールの仕組み(戦略に対応した方針設定・業績モニター・業績評価・目標整合的動機づけ)が必要である。 <BR>本稿では,小売業のHDであるイオンとセブン&アイHDの事例から,なぜHD化の必要があったのかを明らかにすると共に,分権化の行きすぎが企業の業績に負の影響を与える危険性のあることを説明したい。そして,その弊害を緩和するために,事業会社間に横串を刺す仕組みや,管理機能の重複を共通化する仕組み等について検討する。さらに,「選択と集中」のためには本社が統治能力をもつことや,人の異動と資金調達力をHDが握ることが重要であること等,いくつかの事例から得られた知見をまとめることにしたい。