著者
塚田 友二 岡 秀一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.193, 2005

<B>1.はじめに</B><BR> 都市や農村に残存する森林は,人間による影響が大きいため,環境条件に加えてさまざまなスケールの人為攪乱を含む歴史的要因を考える必要がある(大住2003).<BR> そこで本研究では,北海道石狩平野を対象として,人為攪乱をはじめとする歴史的要因が,森林の分布や植生構造にどのように関わってきているのかを明らかにする.<BR><B>2.方法</B><BR> 平野内の85地点で毎木調査を実施し多様度指数(H´),胸高断面積合計(BA)などを算出した.その結果とGISを用いて明らかにされた自然環境条件ならびに人為攪乱とを比較した.人為攪乱の内容には土地利用変化,植栽,流路変更,森林利用,都市化などがある.なお解析は石狩低地帯南部,石狩低地帯中部,石狩低地帯北西部,空知低地帯南部に区分しておこなった.<BR><B>3.結果と考察</B><BR> 森林は平野の8.6%にみられ,農地の強風からの保護を目的に設定された林帯幅数10mの幹線防風林と一部の平地林に残存する.石狩低地帯南部はH´が高く,BAは中庸である.これは明治時代にカシワの選択的伐採があったもののその後の植栽がなかったこと,河川からやや離れた場所の土壌の乾燥化が関係する.石狩低地帯北西部はBA,H´の分散が大きい.古砂丘地形に規定された植栽の有無,土地利用変化パターンが及ぼす種構成の違い,原植生の植生構造を残す旧河川の自然堤防に位置する林分など地域におけるさまざまな植生のタイプの存在が分散を大きくさせている.石狩低地帯中部,空知低地帯南部はBAの分散が大きい.原植生の多くが荒地,湿地,疎林であったことを考慮すると,BAは植栽年数が規定している.しかし戦後に開拓されたため,現在でも湿性な環境が維持されている.そのため絶滅危機種であるクロミサンザシなどの生育地になり,林分はレフュージアとしての可能性を持つ.<BR>この他に住民の管理と強風による倒木の影響を受けている森林が住宅地域に残存している.<BR><B>4.まとめ</B><BR> 平野の森林は,開拓から約140年の間に大なり小なり自然環境条件に規定された人為攪乱を受け,地域ごとに異なる植生構造を形成してきたことが分かった.その結果,1)明治時代の人為攪乱による作用を強く受けた林分,2)樹種構成の変化が起きている林分,3)流路変更の影響を受けず原植生が残る河川近傍の林分,4)自然林と植栽がモザイク状に分布する林分,5)湿性な環境が維持されている林分,6)都市化の影響を受けた林分,の6タイプに区分された.残存する森林は地域特有の歴史性や自然環境の中で培われてきており,それぞれは人為攪乱の影響を受けつつも固有の価値と可能性を持つものとして評価できる.