- 著者
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齋藤 滋
塩崎 有宏
中村 隆文
- 出版者
- 富山大学
- 雑誌
- 萌芽研究
- 巻号頁・発行日
- 2006
胎児・胎盤は母体にとり異物であるが、免疫学的胎児許容機構が働き、胎児は拒絶されない。この機構が破錠すると母体免疫細胞は胎児を攻撃し流産が起こると推定されるが、これまでにヒトでは母体免疫細胞が直接胎児組織を攻撃した証拠を得ることができていなかった。そこで、本研究では細胞傷害性T細胞(CTL)や活性化NK細胞の細胞傷害に関与する顆粒内蛋白であるPerforin (P)、GranzymeB (GrB)、Granulysin (GL)の発現を流産検体で検討したところ、流産例の胎盤付着部(着床部)においてGL陽性のリンパ球が有意に増加していた。一方、P、GrB陽性細胞数には差を認めなかった。Flow cytometryにてGL陽性細胞はCD16^-CD56^<bright>NK細胞であることが判明した。脱落膜CD16^-CD56^<bright>NK細胞を分離後、IL-2で活性化させヒト絨毛外トロホブラスト(EVT)細胞株を共培養させたところ、12時間後にGLはEVT細胞の細胞質に発現し、24時間後にGLはEVT細胞の核に移行し、その後、EVT細胞はアポトーシスに陥った。この反応は細胞接触を必要とし、Pの発現も必要であることを確認した。GL発現ベクターにGFPを連合させたベクターをEVT細胞に発現させても同様の現象が認められた。GFP遺伝子をタンデムに2分子連合したベクターを用い単純拡散で核膜を移行できなくしても、GLは核に移行したことからGLは能動的に核内に移送され、その後アポトーシスを引き起こすことが判明した。次に免疫組織学的に流産胎盤の核にGLが発現していないかを検討したところ、流産例のEVTでは正常妊娠例に比し核内GL陽性細胞数が有意に多かった。また、核内GL陽性EVT細胞はTUNEL陽性でアポトーシスに陥っていた。今回の成績はヒト流産症例において宿主免疫担当細胞(NK細胞)がEVTを攻撃してアポトーシスを引き起こすことを初めて証明したものである。今後、妊娠高血圧腎症の胎盤や癌組織での応用が期待される。