- 著者
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塩見 由梨
- 出版者
- 東京大学経済学研究会
- 雑誌
- 東京大学 経済学研究 (ISSN:2433989X)
- 巻号頁・発行日
- vol.60, pp.33-42, 2018 (Released:2019-01-25)
本稿は,マルクス経済学における熟練労働論の再構築を試みるものである.『資本論』以来,マルクス経済学の労働像は「単純な不熟練労働者」と想定され,熟練概念は積極的にとり上げられてこなかった.しかし,近年は労働の生産性の差に注目が向けられるようになり,熟練概念の再構築は急務となってきている.そこで第I章では,これまで熟練労働と対置して用いられてきた複雑労働,不熟練労働,平均労働の観念と熟練労働との関係を検討し,熟練労働として扱うべき問題を整理した.
第II章では,同じ作業をしても成果に差が生ずる原因として,労働過程における熟練の作用点を確定した.労働者は労働過程で定型化されていない制御の契機を担うため,同じ技術的条件にあってもその制御方法により異なる成果をひき出す.ただし制御の不定形性は,優れた熟練が存在する余地とともに,劣った成果しか生まない不熟練の余地もつくりだす.ここに資本の行動として,優れた成果をひき出すため熟練労働を取りこもうとする側面と,劣った成果を回避するため労働過程での熟練度の余地を解体しようとする側面の二つの方向が見出されることになる.