著者
王 子龍
出版者
東京大学経済学研究会
雑誌
東京大学 経済学研究 (ISSN:2433989X)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.15-31, 2018 (Released:2019-01-25)

アヘン戦争以降,中国の航運市場の対外開放に伴い,欧米企業は中国航運市場へ進出を開始した.19世紀西洋世界で起きた蒸気船革命の影響は,1869年のスエズ運河の開通により,東アジア海域にも及ぶことになった.1860年代以降,欧米諸国の貿易会社は相次いで航運部門を独立させ,中国に汽船会社を設立して,鋼鉄製蒸気船を運航し始めた.これにより,運航速度,輸送量,安定性などの面で劣位に立たされた伝統的な帆船であるジャンク船業は大きな打撃を受けた.中国在来のジャンク船の隻数については,いくつかの先行研究が推計を試みているが,ジャンク船運輸の変遷状況は未だに不明のままである.また同様に,中国航運市場における西洋式帆船,さらに蒸気船の運航状況の全体像も明らかにされていない.しかし,鉄道建設が遅れた近代中国において,交通運輸における航運業は極めて重要な存在であった.近代中国の経済発展における物流の基礎的な意義を明らかにする上で,こうした近代中国航運市場の構造およびその変遷過程を解明することは,重要な基礎作業であると考えられる.本研究では,『中国海関統計』に即して,19世紀後半~20世紀前半における中国航運市場の歴史的変容過程をマクロ的な視点から明らかにする.
著者
石原 卓弥
出版者
東京大学経済学研究会
雑誌
東京大学 経済学研究 (ISSN:2433989X)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.1-5, 2019 (Released:2019-07-15)

本研究ノートは,非分離的モデルのパネルデータを用いた識別に関する最近の研究成果のサー ベイ論文である.非分離的モデルは個人の異質性を考慮したモデルであり,近年,その重要性が 広く認識されるようになっている.非分離的パネルデータモデルの識別に関する多くの研究で は,“stayers”と呼ばれるサンプルが識別の鍵となっている.そこで本研究ノートでは,第2 節で “stayers”と呼ばれるサンプルを用いた2 つの論文を紹介する.しかし,これらの識別方法ではDID (difference-in-difference)モデルをカバーすることができない.そこで,第3 節で“stayers”を 用いない非分離的モデルの識別方法を紹介する.
著者
三富 悠紀
出版者
東京大学経済学研究会
雑誌
東京大学 経済学研究 (ISSN:2433989X)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.1-13, 2018 (Released:2019-01-25)

マーケティングにおいて,消費者に対して「いつ」,「どんな商品」をプロモーションするかというのは,重要な問題である.本研究では,スーパーマーケットにおける各消費者の「揚物惣菜」「ヨーグルト」「牛乳」「菓子パン」「鶏卵」の5つの商品カテゴリーの購買間隔がワイブル分布に従うモデルの構築を試みた.分析モデルから得られた形状パラメータと尺度パラメータから,5つの商品カテゴリーについて,消費者ごとの購買傾向を明らかにした.分析結果に基づき,消費者ごとのプロモ―ションを行う商品カテゴリーについて改善の可能性を提示した.
著者
塩見 由梨
出版者
東京大学経済学研究会
雑誌
東京大学 経済学研究 (ISSN:2433989X)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.33-42, 2018 (Released:2019-01-25)

本稿は,マルクス経済学における熟練労働論の再構築を試みるものである.『資本論』以来,マルクス経済学の労働像は「単純な不熟練労働者」と想定され,熟練概念は積極的にとり上げられてこなかった.しかし,近年は労働の生産性の差に注目が向けられるようになり,熟練概念の再構築は急務となってきている.そこで第I章では,これまで熟練労働と対置して用いられてきた複雑労働,不熟練労働,平均労働の観念と熟練労働との関係を検討し,熟練労働として扱うべき問題を整理した. 第II章では,同じ作業をしても成果に差が生ずる原因として,労働過程における熟練の作用点を確定した.労働者は労働過程で定型化されていない制御の契機を担うため,同じ技術的条件にあってもその制御方法により異なる成果をひき出す.ただし制御の不定形性は,優れた熟練が存在する余地とともに,劣った成果しか生まない不熟練の余地もつくりだす.ここに資本の行動として,優れた成果をひき出すため熟練労働を取りこもうとする側面と,劣った成果を回避するため労働過程での熟練度の余地を解体しようとする側面の二つの方向が見出されることになる.
著者
王 子龍
出版者
東京大学経済学研究会
雑誌
東京大学 経済学研究
巻号頁・発行日
vol.60, pp.15-31, 2018

アヘン戦争以降,中国の航運市場の対外開放に伴い,欧米企業は中国航運市場へ進出を開始した.19世紀西洋世界で起きた蒸気船革命の影響は,1869年のスエズ運河の開通により,東アジア海域にも及ぶことになった.1860年代以降,欧米諸国の貿易会社は相次いで航運部門を独立させ,中国に汽船会社を設立して,鋼鉄製蒸気船を運航し始めた.これにより,運航速度,輸送量,安定性などの面で劣位に立たされた伝統的な帆船であるジャンク船業は大きな打撃を受けた.中国在来のジャンク船の隻数については,いくつかの先行研究が推計を試みているが,ジャンク船運輸の変遷状況は未だに不明のままである.また同様に,中国航運市場における西洋式帆船,さらに蒸気船の運航状況の全体像も明らかにされていない.しかし,鉄道建設が遅れた近代中国において,交通運輸における航運業は極めて重要な存在であった.近代中国の経済発展における物流の基礎的な意義を明らかにする上で,こうした近代中国航運市場の構造およびその変遷過程を解明することは,重要な基礎作業であると考えられる.本研究では,『中国海関統計』に即して,19世紀後半~20世紀前半における中国航運市場の歴史的変容過程をマクロ的な視点から明らかにする.