著者
大城 卓寛 塩谷 あや 横谷 浩爾 佐藤 友紀 柴崎 好伸 佐々木 崇寿
出版者
Showa University Dental Society
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.121-129, 2002-06-30

ヒト乳歯の生理的歯根吸収の細胞機構を調べるため, 破歯細胞における液胞型H<SUP>+</SUP>-ATPase, カテプシンK, MMP-9, RANKLの免疫組織化学的発現を調べた.H<SUP>+</SUP>-ATPase, ライソゾーム性のタンパク分解酵素であるカテプシンK, MMP-9はそれぞれ, アパタイト結晶の脱灰と1型コラゲンの分解に重要な酵素群である.さらにRANKLは, 破骨細胞の形成と機能発現に重要な調節分子の一つである.破歯細胞は吸収中の歯根象牙質表面に, 波状縁と明帯を広範囲に形成した.免疫電子顕微鏡像では, 液胞型H<SUP>+</SUP>くATPaseの発現を示すコロイド金粒子の分布が破歯細胞の空胞の限界膜と波状縁の形質膜に沿って観察された.破歯細胞におけるカテプシンKは, 空胞内, ライソゾーム内, 波状縁の細胞間隙, および吸収面の象牙質表層の基質に観察された.破歯細胞におけるMMP-9の発現はカテプシンKの発現と類似していた.RANKLは象牙質吸収面に局在する単核の間質細胞と破歯細胞の両方に見出された.これらの結果から, (1) 破歯細胞はH<SUP>+</SUP>-ATPaseによるプロトンイオンの能動輸送によるアパタイト結晶の脱灰, そして (2) カテプシンKとMMP.9の両方による象牙質1型コラゲンの分解に直接関与しており, (3) 破歯細胞の分化と活性は, 少なくとも部分的には, RANKLによって調節され, さらに (4) RANKLは吸収組織において単核の間質細胞と破歯細胞自身によって生成されていることが示唆された.このように, ヒト乳歯の生理的歯根吸収における細胞機構は破骨細胞性骨吸収機構と極めて類似していることが明らかとなった.