著者
境谷 栄二 井上 吉雄
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.81, no.3, pp.317-331, 2012 (Released:2012-08-06)
参考文献数
30
被引用文献数
11 6

近年,全国の米産地では,リモートセンシングで推定した玄米タンパク含有率 (以下,玄米タンパクと呼ぶ) を活用して,栽培指導や区分集荷が試みられるようになってきた.しかし,特に本州以南では推定精度が不十分で実用化が進んでいない場合が多い.本研究では推定精度および実用性の向上を目的として,青森県津軽中央地域の水田地帯100 km2を対象に航空機ハイパースペクトルで複数年の観測実験を行い,玄米タンパク推定の誤差要因をNDSI (正規化分光反射指数) を用いて分析した.地上で調査した葉色と玄米タンパクは,年次を通して密接な関係があった.しかし,反射スペクトルからの推定力の傾向は,葉色と玄米タンパクで違いがみられた.観測時の葉色に対しては赤と緑の双方の波長で推定力が高いが,収穫時の玄米タンパクに対しては赤の波長では大きく劣った.これは赤の波長が生育ステージの変化に対する感受性が強いことに起因している.この影響を分析するため,生育ステージの変動を施肥条件と田植時期の違いによる部分に分割したモデルを提示した.施肥条件は玄米タンパクと強く関係するのに対し,田植時期はほぼ無関係である.そのため,田植時期に起因する生育ステージの変動が大きい場合は,玄米タンパクの推定精度が低下しやすい.また,観測時期が早いほど,田植時期に起因する変動の影響が相対的に大きくなることも精度低下の一因となる.したがって,玄米タンパクの推定には,従来のNDVI (=NDSI[赤,近赤外]) に替わり,NDSI[緑,近赤外] を用いることで,生育ステージによる影響が緩和され,精度の低下を軽減できる.
著者
吉永 悟志 境谷 栄二 吉田 宏 山本 晶子 若松 一幸 菊池 栄一 本間 昌直
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.445-449, 2007-07-05
被引用文献数
1 2

水稲の湛水直播栽培では,播種後の落水管理の普及による出芽・苗立ちの安定化にともない,酸素発生剤(カルパー)の種子への被覆量を減量する事例が増加しつつある.本報告では,東北地域においてカルパー被覆量と苗立ちとの関係を播種後落水条件で比較した試験事例を収集,解析し,寒冷地の湛水直播栽培におけるカルパー減量が苗立ちに及ぼす影響について検討を行った.ガルパー無被覆条件では,播種後落水条件であってもカルパー被覆条件と比較して苗立ち率の変動幅が増大するとともに苗立ち率が顕著に低下した.一方,カルパーの乾籾2倍重(標準条件)と乾籾1倍重(減量条件)被覆種子の苗立ちを比較すると,カルパー減量による苗立ち率の低下は供試データの平均値で約4%であり,カルパー減量の影響が小さいことが示唆された.しかしながら,播種深度や出芽期気温の影響について検討した結果,出芽期気温の低い条件ではカルパー減量による苗立ち率の低下が認められた.このため,播種後の日平均気温が15℃を下回るような低温の継続が予想される地域あるいは播種時期においては,播種後落水を行う場合でもカルパー減量の判断は慎重に行う必要があると考えられた.また,カルパー減量を前提とする場合には,標準被覆量で播種する場合よりも播種時期の気温条件に留意して播種目の設定を行う必要があるとともに,低温条件での出芽促進技術の導入を図る重要性が高まることが示唆された.