著者
吉田 宣夫 武政 安一 高橋 哲二 増山 忠良
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.359-363, 1993-12-20
被引用文献数
5

茨城県在来のしめ縄用品種「実とらず」と飼料用稲品種「はまさり」を栽培し,登熟途上の生育特性と主に茎葉部の酵素分析結果から,CW画分動態と両品種の利用型について比較検討した。出穂期は「はまさり」が9月13日で,埼玉県で極晩性に属し,「実とらず」は11日早かった。耐倒伏性は,「はまさり」が優れていたが,「実とらず」は糊熟から黄熟期にかけてほぼ全面的に倒伏した。草丈は,「実とらず」が乳熟〜黄熟期の平均値で146.9cmとなり「はまさり」に比較して28.5cmの差(P<0.01)があり,しかも,細茎で乾草としての調製適性が示唆された。乾物収量では,「はまさり」が多収性(P<0.05)を示したものの,両品種とも100〜130kg/aの生産量が認められた。茎葉部割合は,「実とらず」>「はまさり」の関係が登熟過程で常に認められた。茎葉部の栄養価は,両品種いずれも登熟に伴い細胞内物質(OCC)は減少,相対的にOCW(細胞壁物質)は増加したが,OCCの減少に有意(P<0.05)な品種間差が認められた。「実とらず」は急激な減少を示したのに対して,「はまさり」は比較的緩慢な減少を示し,茎葉中に光合成産物の蓄積が大きいことがうかがわれた。OCW中の高消化性繊維(Oa)画分は,いずれの熟期でもほぼ安定し,品種間差は小さくなったが,登熟に伴う低消化性繊維(Ob)画分の増加傾向は「実とらず」で顕著であった。以上の結果から,飼料用水稲の育種においては茎葉比率の高い品種の場合,登熟に伴う茎葉部の飼料価値の減少は水稲ホールクロップに及ぼす影響も大きくなるために,その動態を考慮すべきであることが示唆された。