著者
増田 倫士郎 中尾 史郎
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.147-158, 2013-07-05 (Released:2018-09-21)

エサキアメンボの腹面色彩には黒色型と白色型の季節型が知られる.本研究では和歌山県紀の川市個体群を様々な光周条件下で飼育し,腹面黒化と生殖休眠誘導の関係を把握した.さらに野外での季節消長を調査して黒色型と休眠個体の出現時期を解明した.短日条件下で発育した雌には休眠が誘導され,その臨界日長は約13.75時間だった.明期14時間以下の短日条件で発育したすべての個体は黒色型となったが,明期14.5時間以上の長日条件で発育した大部分の個体は白色型となった.黒色型の雌には休眠虫と非休眠虫が出現したが,休眠虫は白色型には出現しなかった.幼虫後期(4齢と5齢幼虫)の光周条件が休眠誘導と色彩型決定に重要であった.野外において本種は年3回発生し,黒色型の休眠雌は9月上旬から出現することが示唆された.第1世代成虫は5月中下旬に出現し,それらはすべて白色型で,休眠せず産卵を開始するだろう.本研究結果は,黒色型の発現が休眠誘導と厳密に同調しないものの,越冬と密接に関連することを示唆した.