著者
多々良 穣
出版者
東北学院榴ケ岡高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

世界史の授業では、暗記を重要視しがちである。試験で高得点をとらなければならない面は否定しないが、暗記に偏れば無味乾燥な授業になってしまう。しかし、なぜ教科書に書いてあるのか、どのように歴史像にたどり着いたのかについてのエピソードを盛り込むと、生徒たちの目の輝きが違う。古代文字に焦点を当てていかに高校生の関心を引き出し、彼らの歴史理解を向上させる授業を研究するのが、本研究の目的である。概説書を精読して、文字発見のエピソード、文字解読方法、文字解読による歴史(社会)の復元などをまとめた。文字が初めにこの世に誕生したのは、紀元前3500年頃に発明された楔形文字であった。世界の文字体系は、楔形文字・ヒエログリフ文字・アルファベット・漢字体系などに大別されるが、本研究では楔形文字、エジプト神聖文字、線文字B、甲骨文字、そしてマヤ文字について整理した。実際の授業で生徒が関心を持ったのは、次の事項であった。(1)楔形文字に関して、ローリンソンが命をかけて絶壁あるベヒストゥーン碑文を拓本したエピソード。やはり冒険ものは、生徒たちには面白く感じられたようである。(2)エジプト神聖文字の解読において、シャンポリオンが「プトレマイオス」と「クレオパトラ」の文字を比較し、アルファベットの音価を確定して「ラムセス」と「トトメス」という王名を解読した事例。これについては非常に具体的な言語学の話に踏み込むことができた。(3)現在話題になっている「2012」問題に絡めて説明した、マヤ文字や暦の読み方。マヤの長期暦があと2年後に循環してスタートに戻るという話には、非常に興味深く聞き入っていた。なお、私の専門である古代マヤ文明については、正しく文字解読されたことで、これまで雨の神だとされていたものが山の怪物であることがわかった。このことは本研究の成果の一つであり、後述する学術雑誌のほかに研究会やシンポジウムで発表する予定である。