- 著者
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多久嶋 亮彦
- 出版者
- 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
- 雑誌
- 日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
- 巻号頁・発行日
- vol.120, no.2, pp.97-103, 2017-02-20 (Released:2017-03-23)
- 参考文献数
- 20
顔面神経は第二鰓弓由来の末梢神経であり, 顔面神経の運動神経線維が分布する表情筋も, 第二鰓弓由来の組織である. 先天性顔面神経麻痺は原因として神経原性と表情筋原性の両者が考えられるが, その本態は定かではない. 仮に神経原性のものであるならば, 生後間もない時期にはまだ表情筋の萎縮が生じていないことが考えられ, 神経移行術などによる再建方法が考えられる. しかし, 現実的には1歳以下の乳児に対して再建術が行われることはない. したがって, 先天性の顔面神経麻痺に対しては, 既に表情筋が廃用性萎縮に陥った後の陳旧性顔面神経麻痺に対する治療に準じた手術方法が選択される. すなわち, 眉毛, 眼瞼, 頬部など各部位ごとに対する再建術を組み合わせて治療を行う. 一般的に小児期の顔面神経麻痺は, 安静時には麻痺が比較的目立たず, 兎眼など大きな機能障害をもたらす可能性がある症状も軽度であるため, 積極的な治療が行われない場合が多い. しかし, 先天性麻痺では頬部の動きに乏しいことが多く, 笑いの表情を作ることができないことが多々ある. また, 患児が笑うことにより顔の歪みが目立つことを嫌がり, 自ら「笑わなくなること」で表情の乏しい印象を与えることも多い. したがって, 患児の社会性を発達させる上でも顔面神経麻痺の治療, 特に笑いの再建は重要であると考えている. 笑いの再建方法としては, これまでには腓腹神経移植による顔面交叉神経移植術と薄筋移植術を二期的に行ってきた. しかし, この方法は治療期間が長くかかるため, 1990年代後半より広背筋を用いた一期的再建術が主流となっている. さらに最近では, 移植筋の動きがより大きくなるように, 動力源としての神経を2つ選択し, 二重支配を受ける筋肉移植術を行い始めている.