- 著者
-
大内 雅利
村山 研一
- 出版者
- 明治大学
- 雑誌
- 基盤研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 1997
本研究は、農村と農家の社会変動を、それらを構成する最小単位である個人のライフコースからみようとした。それは諸ライフコース間の協調・対立・妥協、さらには新しい制度形成によって説明されよう。第1に、特に顕著な対立は昭和ヒトケタ男性と女性の間にある。前者は現在70歳前後で戦後農業の担い手であり、今は農協組合長などの役職につき農村権力構造の頂点にいる。女性の地位向上と対立する世代である。第2に、背後にあるのは農家女性のライフコースの変化である。女性のライフコースは結婚に大きく左右される。近年は非農家出身・農業経験なし・農外就業・恋愛結婚というライフコースが多い。これは昭和ヒトケタ世代の農家出身・農業手伝い・見合結婚というライフコースとは著しく異なる。家制度と農業の外へと出た経験をもたない。第3に、非農的な体験を積み重ねた農家女性はこれまでの世代と異なり、直売店を持つなど積極的に外に出るようになった。第4に、親のライフコースは子のライフコースのモデルとならなくなった。むしろ子のライフコースが親のライフコースに影響するという、ライフコースの相互規定的な現象がみられる。第5に、合い異なるライフコース間の諸対立を社会的に調停する一つの試みが家族経営協定である。これは行政の主導によって、宮崎県高城町に多くみられた。第6に、現代の農村においてもっとも異質なライフコースは非農家出身の新規就農者であろう。新規就農者のライフコースは未だ安定していない。なかには自然農法のグループもいる。このように現代の農村は、ジェンダー・世代・出身などによって多様なライフコースの持ち主が構成する社会となり、それらの間の対立と共同によって変動している。